空中楼閣*R25

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硝子箱

事の終わり

時間の流れまでも変わってしまうことを彼に教えられた。 流れが滞るのでも、早くなるのでもない。時間そのものが「流れる」という束縛から自由になってしまう。自由になるのは、時間だけではない。感覚が理性から浮き上がってしまう。 震え続けるのが本来の…

事の初め

鏡の前で膝を開いて彼に腰の中心を拡げられた瞬間、グロテクスだと思った。 自分の真下に別の生き物が密かに息づいていた。淫らな生き物、そのものが彼の言う「おんな」の入り口なのだろうか。 子宮という球根から首を伸ばして腰の中心に隠花を開く、そんな…

春蘭花銘鑑

声にして読んでみて、と彼が言う。「春蘭。直立した花茎はやや肉質で、膜のような鞘状の葉で覆われている。花弁はやや短く・・」 「似てるでしょ。貴女の、と」 耳元で心地よい声、それだけで腰が甘い。「唇・・唇弁は真ん中に溝があり、左右に薄紅色の斑点…

アフタヌーン・ランチ

エチケットの権威といわれるエミリー・ポスト夫人に因れば、「有閑マダム」を穏やかな非難を込めて「ランチする女」と呼んだらしい。 何故、「穏やかな非難」なのかと言えば、ランチはもともと小腹が空いた女性が自分達のために女性同士で摘むような軽食のこ…

唇重ね

見つめ合うだけで距離を失ってしまうような視線を、不意に塞がれた。 塞がれた分、感じ取れる。キスを奪われて、唇から意識が失われるように空間の中で自分を切り取っている境界線が溶けて流れ出す。その感覚がいつもより鮮明に尖っていて、痛いくらいの痺れ…

刻印の悦楽

「あぅ、っ」 凍みる・・彼に噛まれた雌しべの、その右側だ。慌てて洗浄シャワーの勢いを緩めた。 逢うたびに、彼は必ず私に痛みを刻みこむ。 右の乳首の付け根だったり、後ろ手を強要された肩だったり、脇の下の痣だったり、そして今回は、雌しべの付け根が…

ダイニング・テーブルとティー・スプーン

彼に誘われるまま、私はショーツを脱ごうと膝を折り曲げた。・・あ、冷たい。膝頭がショーツの潤みに触れて、すっかり濡らしていることに自分でも驚いた。 目を凝らすと、潤みが細い銀色の糸を曳いていた。「ダメ、これ以上、日常に入り込まれたら・・私」 …

背中の向うに

彼の腕が弦楽器を奏でる弓のように、ゆっくりと動くたびに、私は消えそうになる視線を堪え、解けそうな指先に力を込める。 唇から漏れる恥ずかしい吐息が、不意の大きな喘ぎになってしまって、慌てて唇を噛んだ。 着物を裾を開く指先の感覚が消えて行く。立…

ガラスの林檎

何となく抱かれることが男を繋ぎ止めておく唯一の手段だと思っていた。確信とかではなく、本当に何となく、恋愛関係とはそんなもので、それが世間一般の常識だと。 例えるなら、キスをされた時には、その唇が離れないうちにキスに応えなくてはいけないという…

混沌として曖昧に滲むもの

彼に言わせると「あご髭の男」は全部、あの俳優に見えるらしい。「長い髪の細面であの年齢の女」は、全部、あのアイドルに見えるとか。 まったく彼の顔の識別の能力ときたら、彼が覚えているカクテルの名前より少ないに決まってる。彼が銘柄で思い出せる日本…

某日、午後1時半

硬い音とともに、彼は床に小さなグラスを置いた。「過冷却になってるんだ。静かに冷やされて、自分が凍ったことに気付いていない」 彼の手には、白い冷気を垂らすような凍ったボトルがあった。「こうやって、注ぐと、気が付くんだ。自分が凍っているべきだっ…

弛緩する身体

奥まで含むたびに、鎖が床を叩く。巻き付けた紅い皮の首輪の重さを感じさせられる。 自分で自分を犯すように、喉の奥までディルドを呑み込む。嗚咽を数回堪えると、意識が遠ざかる。 力が抜けて腰が落ちる。床に突いた膝が左右に滑って、腰が開く。ベルトで…

熟していく

「今日からは、触れないように」 ええっ、だって、朝と夜の二回は逝きなさいって私に命じてたのに。それも先週は、夜にも二回、続けて逝きなさいって。 刺激され過ぎて私の雌しべは、体を捻っただけで下着に擦れて声が漏れそうなくらいなのに。「貴女の果肉…

淫らの連鎖

見上げると、銀色のスプーンと生卵を割り入れたカクテルグラスを手にして、逆さまになった彼が私を見下ろしていた。 逆さまなのは私のほうで、顎が胸に付くほど首を曲げて、後頭部を朱色のソファの座面に埋めていた。 素肌の腰は背もたれに委ねて、全裸の私…

樹液に溶ける肌

指の先が弾力の塊を揺らすたびに、白く霞んだ視界が閉ざされる。腰から背中へと駆け上がる快感に瞼が閉じてしまうのだ。 腰が溶けて崩れ落ちそうになると、背中に痛みが走り、引き戻される。遠くで彼の冷静な声がする。雨は音もなく私の肌を濡らす。「もっと…

意地悪な硬さ

腰を浮かせた時、彼が嬉しそうな顔で二人の狭間を眺めていた。「垂れて来てる。花びらから蜘蛛の糸みたいに、ペニスの先に」 一瞬、何の事か判らなかった。それが自分の愛液だと気が付いて体が熱くなった。持ち上げた腰が崩れそうになった。「だめだめ、折角…

桜色の媚薬

乳白色をした白磁の湯飲みに塩漬けの蕾を入れて、彼がお湯を注いだ。立ち上る湯気の中で、桜が身悶えながら解けて行く。「貴女の花びらみたいだね」 彼の言葉に顔が火照りだす。「え・・」 言葉を返せないのは、頭の中にイメージが浮かんでしまうから。彼の…

ブランケット・デイ

肌寒い雨の日は、彼に背中から抱かれたまま、全裸でブランケットにくるまって、窓ガラスを滑り落ちる雨粒を眺めるのが好き。 彼の呼吸と肌の温度を背中で感じながら、花びらを擦る彼の硬さに目を細めて意識を霞ませる。 時々、胸の先で悪戯をする彼の指に、…

雨模様

今にも泣き出しそうな空だった。彼なら「泣き出しそうな、と最初に表現したのは誰だろうね」と、言いそうだ。現にさっきもこんな事を言って来た。「雨模様って、どんな模様なんだろう」 雨模様の模様は、図柄とかの「文様」でなくて予測の「模様」でしょ、と…

私には

肌に触れられると心まで甘く霞んでしまう。 キスだけで泣けてしまうものだと、誰かに言われたけれど、その時の私には判らなかった。 知らない方が良いこともある、と誰かが言っていたけれど、知ってしまったのならば、その快楽に溺れていたい。「焦点があっ…

あの人は

雨に音が吸い込まれてしまったみたいだった。降り注ぐ雨自体の音も、吸い込まれてしまった。 朝だというのに、自分以外には存在が居ないかのように静かだった。私自身の存在すら定かではないくらいに、静かだった。 鼓動の音。耳を澄ましても、それも上手く…

渇望するも

濡れた指の先で花蜜が白い糸を曳く。突然の強い風が窓の外で何かを揺らす音が聞こえる。 床に置いて立てかけた鏡だけを見つめていると、その世界だけが、この世の全てならいいのに、と思ってしまう。 この部屋は温かく、風さえも部屋の窓を鳴らすこともない…

夢の場所 〜冬の物語〜

いつも同じ場所だった。日当りの良い彼の部屋は、冬だというのに二面から降り注ぐ太陽の光で汗ばむほどだった。 私は、その彼の部屋の広いデスクの上で意識が戻る。腰の下が冷たい。朦朧としたまま、手を伸ばすとデスクが濡れていた。「今日も沢山、漏らした…

キスから始まる

彼に背を向けるといきなり後ろから抱き締められた。そのままベッドへと押し倒される。 スカートを引っぱり上げられて、腰の熱が解放される。言葉では抵抗するけれど、自分から腰を浮かして心なしか膝を緩めてしまう。 微かな動きを見透かすように、彼の手が…

2==シャンパン・ボトル

薄らぐ意識の先で縦長の窓の向こうを見ていた。光を透かす木々の枝で、細かな緑が季節の風に揺れていた。 想像もしていないことは、意図もせず突然に、しかもさりげなく訪れるものだと、初めて知った。 スカートをたくし上げて、しゃがみ込んだ腰を上下させ…

1==アジアン・ビール

彼はベッドに腰をかけて二本目のビールを飲み干すと、コツンと乾いた音をさせて空になった小振りな瓶を床に置いた。 そのまま手を離さずにビール瓶を私の前まで滑らせてから、私の顔をじっと見つめながら身体を起こして座り直した。 床の上に足を崩して座っ…

戯れはテーブルの下で

感じの良いお店ね。・・隠れ家のような入り口だけど、中からの眺めはいいねえ。でも、ちょっと足元が冷たいかも。・・暖房、強くしてもらおうか。私、いつも足先が冷たくて、顔は火照っちゃうから。・・掘りごたつだったら良かったかな。このお店には似合わ…

エロチック・デバイス(2)

とめどない快感への準備は、朝から始まっている。 いつもより早い時間にベッドから抜け出すと、裸になりながらシャワーへと向かう。髪を洗い終えてから肌をボディーシャンプーで泡立てた。 滑らかな泡を塗り付けながら、まだ眠っていた乳首を刺激した。片膝…

エロチック・デバイス(1)

楽しみに溺れるための準備は、朝から始まっていた。 いつもより早起きをして、朝の支度を済ませ、夫と子供を送り出す。家事を片付けてから、シャワーを浴びた。 タオルで身体を拭ったら、昨夜の下着は洗濯カゴに丸めていれた。明るい部屋を全裸でクローゼッ…

今は、欲しいだけ

彼女からの相談事に思わず、苦笑いをしてしまう。「彼ったら・・来週、頑張って時間つくります・・だって。忙しいけど、射精のためなら何とでもする、と聞こえて仕方ないわよ。なんか、逢う気が失せる」 もちろん、それまでの彼の言動があってのことだけど。…