空中楼閣*R25

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エロチック・デバイス(1)

 楽しみに溺れるための準備は、朝から始まっていた。

 いつもより早起きをして、朝の支度を済ませ、夫と子供を送り出す。家事を片付けてから、シャワーを浴びた。

 タオルで身体を拭ったら、昨夜の下着は洗濯カゴに丸めていれた。明るい部屋を全裸でクローゼットまでいき、普段とは違うショーツを準備した。

 下着は着けずに部屋着のワンピースを来て、セーブルのカップを取り出し、朝向きの紅茶を淹れた。ロイヤルダルトンのイングリッシュ・ブレックファースト。

 大画面のネットテレビのスイッチを入れて、彼のレスを待つ間に香り高い紅茶を一口飲む。セーブルの深いブルーが、昂る気持ちを快楽の序章へと静かに誘う。

 赤い巾着袋から取り出した黒い電動ディルドは、かなりの太さで、見るからにグロテスクだ。同じテーブルにあるセーブルの上品さとは似ても似つかない。それが、妙に卑猥だった。

 腰の下に使っていたバスタオルを敷いてから膝を立て、脚を大きく拡げた。

 卑猥な玩具の先端に舌を這わせて濡らし始める。吐息の後に、紅茶の香りを吸い込んだ。

 ログオンのチャイムが鳴って、画面に彼の笑顔が現れる。

「そのまま続けて」と彼の声がリビングに響く。

 唇を開いて、濡れた玩具を花びらに押しあてた。彼の顔を見ながら太さを押し込むと大きく吐息が漏れた。

 一気に奥まで突き立てた。そのままスイッチを入れる。モーター音に視界が滲み始める。画面の片隅に淫らな表情で腰を震わせる自分が映っている。

 子宮が身を強ばらせて反応する。水分を含んだ海綿を絞るようにして、花びらから溢れ出てきた。

 焦らしながらディルドを引き抜くと、後追いするように貪欲な粘膜が纏わり付く。黒光りする玩具にとろりと白濁の粘液が付いていた。

「子宮だけで逝きなさい」

 彼が言う。私はもう一度、太さを奥深くまで沈めて、容赦なく突き動かした。

「ああ・・イイ」

 すぐに昇り詰めそうになる。

「あっ・・だめ」
「まだ、だよ」

 アヌスがきつく口を窄めて、腰が浮き上がったまま震え出す。

「・・は・・い」

 逝かないように奥歯を食いしばった。足の指を反らしたら逝ってしまいそうだ。

 そんな事を数回繰り返してから、やっと許しを貰った。狂ったように手と腰を動かしたら、大きな声をあげながらバスタオルを水浸しにして果ててしまった。

 テレビを切ってから、思い出すかのような痙攣に襲われながらソファーでうっとりとしていた。

 携帯が鳴った。主婦仲間からのランチの誘いだった。

 心なしか潤んだ声でランチを断った。年下の男と付き合う友人が、その彼がセックスだけしか求めないと、下らない悩みをいつも訴える。

 馬鹿みたい、と思いながら、適当に相づちを打った。悩むんで涙ぐむくらいなら、止めれば良いのに。

 時計を見ると、もう約束の時間だった。もう一度、シャワーを浴びて、用意してあったショーツを穿いて、身支度をした。いつもより念入りにルージュを塗った。

 家の前でクラクションが短くなった。彼が差し向けたタクシーに乗り込んで、行き先を告げた。

 信号待ちでカーナビを操作する運転手の視線を気にかけながら、家を出る時に花びらに含ませたローターのスイッチを入れた。腰の奥でモーター音が小さく響いた。

 不意に吐息を漏らさないように、揃えた膝に力を入れる。

 あの部屋で待っている彼は私のエロチック・デバイス。快感に溺れるための最高のデバイス。それ以上でも、それ以下でもない。だから、何を迷うことも、悩む事もない。

 彼のところに辿り着くまでに、何回、昇り詰めるのだろう。