エロチック・デバイス(1)
楽しみに溺れるための準備は、朝から始まっていた。
いつもより早起きをして、朝の支度を済ませ、夫と子供を送り出す。家事を片付けてから、シャワーを浴びた。
タオルで身体を拭ったら、昨夜の下着は洗濯カゴに丸めていれた。明るい部屋を全裸でクローゼットまでいき、普段とは違うショーツを準備した。
下着は着けずに部屋着のワンピースを来て、セーブルのカップを取り出し、朝向きの紅茶を淹れた。ロイヤルダルトンのイングリッシュ・ブレックファースト。
大画面のネットテレビのスイッチを入れて、彼のレスを待つ間に香り高い紅茶を一口飲む。セーブルの深いブルーが、昂る気持ちを快楽の序章へと静かに誘う。
赤い巾着袋から取り出した黒い電動ディルドは、かなりの太さで、見るからにグロテスクだ。同じテーブルにあるセーブルの上品さとは似ても似つかない。それが、妙に卑猥だった。
腰の下に使っていたバスタオルを敷いてから膝を立て、脚を大きく拡げた。
卑猥な玩具の先端に舌を這わせて濡らし始める。吐息の後に、紅茶の香りを吸い込んだ。
ログオンのチャイムが鳴って、画面に彼の笑顔が現れる。
「そのまま続けて」と彼の声がリビングに響く。
唇を開いて、濡れた玩具を花びらに押しあてた。彼の顔を見ながら太さを押し込むと大きく吐息が漏れた。
一気に奥まで突き立てた。そのままスイッチを入れる。モーター音に視界が滲み始める。画面の片隅に淫らな表情で腰を震わせる自分が映っている。
子宮が身を強ばらせて反応する。水分を含んだ海綿を絞るようにして、花びらから溢れ出てきた。
焦らしながらディルドを引き抜くと、後追いするように貪欲な粘膜が纏わり付く。黒光りする玩具にとろりと白濁の粘液が付いていた。
「子宮だけで逝きなさい」
彼が言う。私はもう一度、太さを奥深くまで沈めて、容赦なく突き動かした。
「ああ・・イイ」
すぐに昇り詰めそうになる。
「あっ・・だめ」
「まだ、だよ」
アヌスがきつく口を窄めて、腰が浮き上がったまま震え出す。
「・・は・・い」
逝かないように奥歯を食いしばった。足の指を反らしたら逝ってしまいそうだ。
そんな事を数回繰り返してから、やっと許しを貰った。狂ったように手と腰を動かしたら、大きな声をあげながらバスタオルを水浸しにして果ててしまった。
テレビを切ってから、思い出すかのような痙攣に襲われながらソファーでうっとりとしていた。
携帯が鳴った。主婦仲間からのランチの誘いだった。
心なしか潤んだ声でランチを断った。年下の男と付き合う友人が、その彼がセックスだけしか求めないと、下らない悩みをいつも訴える。
馬鹿みたい、と思いながら、適当に相づちを打った。悩むんで涙ぐむくらいなら、止めれば良いのに。
時計を見ると、もう約束の時間だった。もう一度、シャワーを浴びて、用意してあったショーツを穿いて、身支度をした。いつもより念入りにルージュを塗った。
家の前でクラクションが短くなった。彼が差し向けたタクシーに乗り込んで、行き先を告げた。
信号待ちでカーナビを操作する運転手の視線を気にかけながら、家を出る時に花びらに含ませたローターのスイッチを入れた。腰の奥でモーター音が小さく響いた。
不意に吐息を漏らさないように、揃えた膝に力を入れる。
あの部屋で待っている彼は私のエロチック・デバイス。快感に溺れるための最高のデバイス。それ以上でも、それ以下でもない。だから、何を迷うことも、悩む事もない。
彼のところに辿り着くまでに、何回、昇り詰めるのだろう。