空中楼閣*R25

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2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

午前十時

秋空の透明な青色のように冷えこんだ空気が、高くなった陽射しに温められて、ベッドの上での遅い珈琲タイムを包み込んだ。 窓を半分だけ開けて、昨夜の官能を珈琲の香りと入れ替えた。 気だるそうな表情の貴女の髪を撫でてから、床の上で絡まっている柔らな…

午後二時

斜めに射し込む陽射しが、肌の起伏を柔らかく浮かばせる。遥かな地の、どこまでも続く砂丘は、こんなふうに滑らかな曲線を描くのかもしれない。 ここしばらく、流れる時間を楽しむ余裕すら見失っていた。だから今日は、軽くキスをした後で、貴女を見せて欲し…

今は、欲しいだけ

彼女からの相談事に思わず、苦笑いをしてしまう。「彼ったら・・来週、頑張って時間つくります・・だって。忙しいけど、射精のためなら何とでもする、と聞こえて仕方ないわよ。なんか、逢う気が失せる」 もちろん、それまでの彼の言動があってのことだけど。…

男には二通りある

昨日、テレビで流れていた映画でのセリフだ。・・「男には二通りある。夕陽を眺められる男とそうでない男」がいる。 一見、気の効いた言葉で、実際には何の根拠もないのに、なんとなく説得力があるかのように、すんなりと心の中を通らせてしまう。「二通りあ…

抑制習慣

何一つ、欲しがる事は無かった。例え、外出先で喉がどんなに渇き、歩くことに疲れていたとしても、飲み物や休息を欲しいと言った事はなかった。 与えられた物と与えられた時間と空間の中で自分を満足させて来た。他の子供の持ち物を羨ましがることもなく、欲…

拘束願望

多分、泣いていたのだと思う。哀しいわけでもなく、辛いわけでもなかった。それよりも、痺れるような快感に犯されていた。 気がついた時には、頬が濡れていた。目の下が痛かった。大きな声で泣き叫んでいたような気がした。全てが崩れ落ちていた。見栄も外聞…

それは賢さか、愚かさか

爽やかな風と温かな陽射しの中で、子犬が死んだように腹を見せて眠っている。 彼は、悩んだりはしない。明日の自分がどうなるのだろうとか、自由が欲しいだとか、考えることもない。 それが生き物の正しい在り方なのかもしれない。唯、ここに生きる。 某書籍…

ガラス窓の会議室

隣りの部屋から、会議を始まりを告げる声が聞こえる。 私の向かい側のデスクに居る社員の声だ。何かと訳知り顔で仕切りたがるが、そのくせ議論の内容すら理解していなくて、上司から本質を問われると見当外れな回答する男だった。 その男の声は頭の上から聞…

四つに割れた

手のなかに金色が溢れでて、弾けるように床を濡らした。響き渡る喘ぎ声が、短く途切れて泣き声になる。 大きく拡げられた貴女の腰が波打って、窓の明かりに飛沫が煌めく。紅い唇から唾液が滴り、切ない眼差しから涙が溢れる。執拗に潰されて、緋色に熟した真…

赤い実、食べた

銀色の糸を曳いて、貴女の声が聞こえなくなる。繰り返していた痙攣が、ひと続きになって、やがて弛緩した。 花びらだけが嗚咽して、内側を見せながら白蜜を流す。火のように熟したナナカマドと、同じ大きさぐらいの貴女の雌しべは、もう触れることも憚られる…

コットンクラブ

改装中の地下街でいち早く始めた居酒屋には、にぎり鮨のカウンターもあって、昼下がりというのに板前が三人も控えていた。 出羽桜を二合と刺身、焼き物を頼んだ。刺身は鯛にホッキ貝、鮪、烏賊だった。焼き物の軽く粕漬けにされた鰆は、酒粕よりも煮切り醤油…

巣ごもり

久しぶりに、お気に入りの蕎麦屋で遅い昼をとった。 けっして洒落た店でも、有名店でもない。二階建てビルの一階にある奥まった事務所のような入り口は入店する意欲もそいでしまう感じの造りだ。 外観の無愛想さとは裏腹に店の居心地は良い。なにしろ空いて…

雌しべの解剖

透明なネイルが行儀よく並んで、花びらの上端を拡げるように引き上げる。赤い頭巾が引き延ばされて、被われていた雌しべが姿を見せた。 貴女の唇をなぞった後に、可愛い舌の先で私の指を潤ませた。その滑りが乾かないうちに、そっと貴女の雌しべに触れる。「…

受粉する卵子

「植物って生殖器を剥き出しにしてるのね」 草花展の静かな空間に、貴女の声は透き通りすぎる。隣りの作品を眺めていた二十代の女性が視線を泳がせた。「虫を呼ぶために花を咲かせるのだから、目的には適ってるよ」 コツンとハイヒールを小さく鳴らして、次…

クマさんの言うとおり

「突然、こんなフレーズが頭に浮かんだままで身動きしないの」 貴女から、そんなSOSが来た。別に遭難しているわけではないが、文章書きには良くあることだ。 場違いなところに現れて、すっかり腰を落ち着けてしまったクマみたいなものだ。そいつが動かな…

マリモの時間

生まれ変わるとしたら見晴らしの良い稜線に生える大きな木になりたい、と貴女の書き送ったのは、もう随分と昔のことのような気がする。「ねえ、マリモって『生き物ですから大切に』って容器に書いてあるけど、本当かな。嘘だよね」 と小瓶の中で大小二個の緑…

バニラ・フレーバー

「セネガルの人としちゃったの」 貴女はいつも唐突だった。それも、いつになく美味しくはいった紅茶を一口だけ飲んだ時だったりする。「やっぱりね。でも、この前は『会ったけど何もなかった』って言ってたじゃない」 私は何でもない振りをして答えながら、…

愛なんて言葉は

物語というのは、突然に落ちて来たりはしない。 幾つかのフレーズが不意に浮き上がり、用水路の渦でぐるぐると回りながら浮かぶ小さな水草みたいに、くっついたり離れたりしていることが多い。 偶然の繋がりが関係なさそうなフレーズを結びつけて、物語にな…

罪なき人々の罪深き朝に

覗き込んだ紙袋の中には、黄色に茶色の斑点をつけた紙工作の作品があった。多分、キリンだと思う。いや、もしかしたらヒョウかもしれない。 その出来の悪さに、図工と体育が苦手だった小学生の自分を思い出した。 クラスでは優等生と言われていたぶんだけ、…

覚醒する世界

自分の秘部すら見たことが無いのに、女の身体には持ち主すら知らない感覚に満ちている。 彼に触れられる部分の全てが、自分のものではなくなっていく。セックスとはそういうものなのだろうか。だとしたら、今まで私は随分と遠回りをしたような気がする。 セ…

欠落する世界

あれは10年以上も前のことになる。以上だと言っておけば間違いないけれど、平成何年のいつ頃だったかと言われると、私は途方に暮れる。なにしろ、父親の命日どころか、亡くなった年も憶えていない。 だからといって、殯(もがり)が済んでいないわけではない…

薄明かりの朝

雨上がりの朝、光の中でベッドの端に赤いリボンが丸まっていた。昨夜、貴女の肌に巻き付いていたリボンだった。 昨夜、出かける前にコンセルジュに幅のある赤いリボンと安全ピンをお願いした。貴女が身支度を整える間に、三センチ幅の赤いリボンとハサミ、そ…

宵闇の雨

「ねえ、締まってる?・・私」 「気持ちイイよ」 キスをしながら貴女の腰を抱き抱えるようにベッドから少し浮かすと、二人は更に深くなる。貴女はその姿勢で舌を強く吸われると、私を一層、締め付けて来るのだ。「舌を吸われると締まるんだねって、誰に言わ…

雨音の午後

もうすぐ正午だった。少しだけ明るくなった窓を眺めながら、ロゼのコルクを抜いた。渇いた音とともに、細かな泡が薄紅の染まる。 貴女がシャワーを終えるのを待つ間に、グラスを用意した。初めて触れてから24時間を共にする。それが、二人で逢うために互い…