空中楼閣*R25

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男には二通りある

 昨日、テレビで流れていた映画でのセリフだ。・・「男には二通りある。夕陽を眺められる男とそうでない男」がいる。

 一見、気の効いた言葉で、実際には何の根拠もないのに、なんとなく説得力があるかのように、すんなりと心の中を通らせてしまう。「二通りある」というのは、そんな言い回しだ。

 だが、この言い回しには罠がある。例えばこんな具合に・・。

「私には白と黒しかないの。中間の感情なんてないわ。好きか、嫌いかなの」

 ルージュに濡れた貴女の唇が不機嫌そうだった。

「好きな男とそうでもない男、っていう選択はないの?」
「好きでもない男って・・そうね。まあ、居ないわけじゃないけど」

 ドライにしてもらったミモザのロンググラスに指を絡ませて、貴女は喉を湿らせた。

「光と影みたいに対極に分けたがるから、苦しくなるんだよ」
「でも、結婚するか、しないか、とか、別れるか、別れないか、とかっていうのは?」

 今度は私のほうを見て、少し意地悪な物言いとした。そういう時の貴女は、左の口角が少しだけ上がる。まるで獲物を見つけた悪女みたいに。

「ん・・んん。確かに中間はないな」
「だから、聞いてるでしょ。私のこと愛してるの、愛してないの」
「男には二通りあるんだよ。それは・・」
「え・・何?」

 私はオールドテイラーのロックをもう一杯、ダブルで頼んだ。二通り、つまり・・「愛している」と「そうでない」と、ああ、不味いな。意味が違う。

「つまり、どういう二通りなの?中間なんてないわよ」

 ああ、そうだ。この場合、中間がない。あれ、おかしいなあ。

「そうだわ。世の中には、二通りあるのよ。中間があるものと、ないもの」
「あ。それ、いいね」

 傾けたグラスの中で氷が回転して、鼻の下にバーボンが跳ねた。

「だめよ。ねえ、ちゃんと答えて。どっちなの」

 彼女の右手が、カウンターに載せた私の左腕をつかんだ。

「男には・・」
「うん」
「二通りあるんだよ。愛を口にできる男と、そうでない男と」

 彼女の手がじっと私を捕まえていた。

 物事には「二通りある」という言い回しは、その後に名詞が続かなければ意味が無いのだ。動詞では具合が悪い。

 つまり「結婚するか、しないか」とか「別れるか、別れないか」とかというと、中間が最初から無くなってしまうからだ。

 光と影とか、男と女という二つの対比される名詞を並べても不味いのだ。「光か、そうではないものか」とか「男か、そうではない(人)か」と続けなくてはいけない。

 名詞を続ける事と名詞は一つであること。それがこの言い回しの罠なのだ。

 ところで・・女には二通りある。自分という女か、それ以外の女か。