空中楼閣*R25

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2009-01-01から1年間の記事一覧

妄想な日々

膝立ちになって両腕を背中に回すだけで、貴女はいつものように顔を少し上げ、目を閉じる。 僅かな静寂が貴女を愛撫したかのように、赤い唇が微かに開くと、もう肌の温度が熟してしまう。「膝を開いて」 その言葉だけで、滴り始めるはず。音も無く、床を滑っ…

舞い降りる

男達に自分を刻み付けて死んだ女がいた。引き止める男達の悲鳴を受信しながら、飛び降りる実況までして消息を絶った。 人は死を意識した時、自分の存在を残る人達に刻み付けたくなるようだ。自分の培ったものを伝えたいと切望する場合もあれば、自分の傷を人…

非対称な感覚

肩口から右胸、その膨らみから脇の下へと指でなぞると赤い唇が緩んで、貴女が背を反らす。「右が感じるね。左よりも」 微睡みから引き戻されたみたいに、目蓋を開いた貴女が視線を私に結ぼうと瞳を揺らした。「そうなの。判らない」 「そうだよ。全部、右が…

脳梁の厚み

「そろそろ本腰入れようかな」 「ええ、今までは浮気だったの?」 「違うよ。右脳だけでなくて、左も使おうかと」 「女は最初から、全部、使ってるわよ」 左右の脳を繋ぐ部分、脳梁の太さは男女で完全に違う。脳は神経の塊で、脳梁はその神経からの電気を伝…

して、欲しいこと

ベッドボードに頭を委ねて、貴女を見つめていた。 弛緩した私の太腿のあいだで俯せになって頬杖を突いている貴女の、シャワーに濡れた髪先が腰のあたりをくすぐる。 貴女は、貴女の中で果ててだらしなくなった部分を指先で弄りながら、唇を閉じたまま先端に…

熱に憑かれて

あれはウイルス性の脳症だったのかもしれない。 高熱が出ると、自分が奈落の底に横たわっているように天井が遥か遠くに見えた。部屋のふすま絵が自分に向かって飛び出して来る。 幼い私は恐怖に泣きわめいた記憶がある。後になって母は「お前が、脳に異常を…

白磁の滑りと真紅のルージュ

魅惑的な唇と濡れた視線だった。眩しいくらいに白い肌だった。 窓からの薄光に泡立った肌がエロチックに息づいて、微かな吐息が柔らかな唇を震わせながら、大きく小さく波打った。 貴女が読みたいと言った宇宙物理学の本が、緑色のハードカバーの角で貴女の…

クリームチーズと林檎色

久しぶりの雨の日。生暖かいような、肌寒いような、曖昧な湿り気を帯びた空気の中にいる。「レア・チーズケーキが好きだよ。アップル・パイも好きだけどね」 紅茶を口元に運びながら、何気なく貴女に呟いた自分の言葉を思い出した。「愛しては、いないのよね…

刻印の悦楽

「あぅ、っ」 凍みる・・彼に噛まれた雌しべの、その右側だ。慌てて洗浄シャワーの勢いを緩めた。 逢うたびに、彼は必ず私に痛みを刻みこむ。 右の乳首の付け根だったり、後ろ手を強要された肩だったり、脇の下の痣だったり、そして今回は、雌しべの付け根が…

ハリネズミみたいに

ついアクセルを踏み込んだ。悪気があるわけでないが、意図不明のウインカーと、不意打ちのブレーキランプを繰り返す先行車に苛ついていた。 独り毒づくなんてみっともないと、いつもは思うのに汚い言葉が口を突く。 少し気を効かせれば判ることなのに、それ…

性愛事情

シャドーの色を見せながら、目蓋を閉じる横顔が白いシーツに埋もれていた。「今までの彼達は、どんなふうに貴女を揺らしたの」 「え・・そんなこと」 気持ちのいい微睡みの途中で揺り起こされたかのように、甘く気だるそうに貴女が呟く。「答え難いよねえ。…

恋愛事情

ココ・シャネルは、「打算のない恋愛をするには、まず女性の経済的な自立が必要だ」と言ったとか。 裏返せば、生計を一つにする男女に打算のない恋愛は育たない、という事か。 愛だけでは空腹は満たせない、とか、金の切れ目が・・とか、とかく恋愛事情には…

貴女のカタチ

「そんな事を言われたら、どうしたら良いのか・・」 貴女の困った顔がとても可愛い。私は、どうしても少しだけ貴女を虐めるのが好きみたいだ。困った男だ。「女性はキャンバスに新しい恋を上塗りするのでしょ。だから、そのキスの仕方は」 「え・・?」 ほら…

キスのかたち

男性は、描き終えたキャンバスを壁に並べたりするのだが、女性はキャンバスに新しい恋を上塗りするらしい。 ふと思う。貴女との初めてのキスのとき、貴女のキスは、まだ一つ前の恋のときの唇のカタチだったのだろうな、と。 そう、一つ前の彼が教えたキスの…

ダイニング・テーブルとティー・スプーン

彼に誘われるまま、私はショーツを脱ごうと膝を折り曲げた。・・あ、冷たい。膝頭がショーツの潤みに触れて、すっかり濡らしていることに自分でも驚いた。 目を凝らすと、潤みが細い銀色の糸を曳いていた。「ダメ、これ以上、日常に入り込まれたら・・私」 …

休日のオフィス

台風が汚れを洗い流したような青く澄んだ光が、天空に広がった日。早目にオフィスまで来た。所用までは、まだ2時間ほどある。 がらんとした空間の駐車スペースを眺めながら、なんだか懐かしい気分になった。 そういえば、昔から休日の職場が好きだった。ど…

失うとは

二人で鍋をつつきながら、軽い気持ちでふと疑問を投げかけてみたら、貴女が言葉を失った。「え・・言葉がないというか、今更というか。まさか嘘でしょ、という感じ」 先週あたりに、なんとなくそうではないか、と思い始めて、貴女の言葉でやっと確信できた。…

模索の日々

そもそも論語の教えにしたって、反面教師みたいな警告文だろう。蹴つまずく人が誰もいなければ、足元注意、とは掲示しない。誰もゴミをすてなければ「ゴミ捨てるな」と看板は立てない。 十五にして学問に志など持てず。三十にして独立など程遠い。四十にして…

背中の向うに

彼の腕が弦楽器を奏でる弓のように、ゆっくりと動くたびに、私は消えそうになる視線を堪え、解けそうな指先に力を込める。 唇から漏れる恥ずかしい吐息が、不意の大きな喘ぎになってしまって、慌てて唇を噛んだ。 着物を裾を開く指先の感覚が消えて行く。立…

貴女の場合

目の前に映る私だけを見ていてくれればいいのに、愛おしくなると私の背中を眺めたくなるのですよね。 声になり、文字になっている部分だけを、信じてくれればいいのに、声色や行間を感じたくなるのですよね。 人は心を寄せてしまうと、その人の背中に背負っ…

曲線が好き

枯れないで待っていてくれた。留守の間、水も貰えずにいたプランターの花が、無事だった。 人間の身勝手で連休ともなれば、命の潤いも絶たれてしまう。だから、朝になって健気なグリーンを見た時に、これまた身勝手ながら安堵した。「私だって、枯れちゃうわ…

慣性の法則

驚くほどスムースだった。たった四日間乗らなかっただけなのに、ハンドルが滑らか過ぎた。サスペンションが路面の振動を丸く、けれど、遅れもなく伝えて来る。 最初にこの車に乗ったのは、もう10年近く昔。あの時と同じ感動かもしれない。 ほんの少し離れ…

切り花

同性にタフな女性と異性にタフな女性がいるような気がする。 群れないという意味で、同性に対してタフなのではないか。懲りないという意味で、異性に対してタフなのだろう。 自分を取り巻く環境を、男性も含めて利用すると言い切れる人は、同性である女性に…

ガラスの林檎

何となく抱かれることが男を繋ぎ止めておく唯一の手段だと思っていた。確信とかではなく、本当に何となく、恋愛関係とはそんなもので、それが世間一般の常識だと。 例えるなら、キスをされた時には、その唇が離れないうちにキスに応えなくてはいけないという…

後ろ手縛りの幸福

女性には、それぞれ触れてはいけないスイッチがあることを知ったのは、大人になって暫くしてからだった。 甘い感覚と緊張で少し汗ばんだまま繋いでいた手の、人差し指を貴女の指の間に滑り込ませた時だった。 驚いたように貴女が私の手を振りほどいた。「あ…

羞恥と悦楽と

耳元から聞こえる貴女の声が上擦っている「胸が痛い・・乳首が・・ああ」 「仕事中に電話した罰ですよ」 貴女は自分のデスクから声を潜めて、電話をかけてきた。オフィスには今は誰もいないから、と。「だって声が聞きたかっただけなのに、あなたが、こんな…

梓的に

「あぁ・・」 送り届ける電車の中で、隣りの座った貴女が小さな声を上げてから私の腕につかまり微かに震えた。「どうかした?」 私の肩に顔を埋めそうになりながら、貴女は頭を小さく左右に振ってから姿勢を立て直した。と同時に、握りしめた私の二の腕に爪…

日記など

五年前の八月の終わりに、こんな事を書いていた。 「砂時計、風見鶏」 いつの間にか風の湿度が変わった 人の営みなどお構いなしに 過ぎていく時間 目に見えないからこそ油断できない その気配を感じ取るには 心の余裕が必要 鳥の声が変わる 稲の緑色が変化す…

予期せぬ甘さに

あれ・・こんなに、だったけ。油断すると意識が腰からの快感に埋もれそうだった。「どうしたの?」 揺らしていた腰を止めて、貴女が怪訝そうな顔をする。「いや、大丈夫・・気持ちイイなあって」 「大丈夫って、変なの」 私は貴女の腰を両手で包んで、前後の…

生命の秘密は宇宙の秘密

とても久しぶりだったと思う。いつもの道をいつもよりもずっと遅い時間に車を走らせていた。 数年に何度か、そんな気分に陥ってしまう。自分という存在が感じうる全ての世界と繋がっている感覚。 丁度、手袋の指の一つになったような感じなのだ。自分は、根…