空中楼閣*R25

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貴女の場合

 目の前に映る私だけを見ていてくれればいいのに、愛おしくなると私の背中を眺めたくなるのですよね。

 声になり、文字になっている部分だけを、信じてくれればいいのに、声色や行間を感じたくなるのですよね。

 人は心を寄せてしまうと、その人の背中に背負った持ち物まで知りたくなってしまう。

 そっと覗いてみては、似たものを探して出会いの奇跡を確認し、違うものをみつけては「持ちましょうか」、「持たせて下さい」と手を出したくなる。

 でも、見せたいもの、見せたくないもの。触れて欲しいもの、触れさせなくないもの。そして、分かち合いたいもの、決して譲れないもの。そういうモノも、過去も、現実も、背負ったリュックには入っている。

 いかに二人のキスが心地よくて、会話が蕩けそうで、食べ方が素敵でも、それでも共有したい過去と、したくない事柄の境界線までもが一致するなんて有り得ない。

 何故って、人はそれぞれの記憶で出来ているのだから。例えば、全く同じ過去を背負っていても「記憶」は異なるのだから。

 綺麗な花も、根っこまで掘り返したら枯れてしまう。爽やかな緑も葉の裏を覗けば虫が巣食う。

 だから、「あなた」には知って欲しい、「あなた」には抱いて欲しい、と差し出されたモノだけを心から包み込めればいい。

 とはいうものの、恋と嫉妬は光と影だから、後ろに隠れているもののほうを欲しくなってしまうのですよね・・貴女も私も。

 嫉妬は隠し事を掘り返してしまわないと落ち着かない。いや・・恋してる限り、消えはしない。恋が萎えるか、あるいはそれが愛に変わるまでは。