空中楼閣*R25

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ハリネズミみたいに

 ついアクセルを踏み込んだ。悪気があるわけでないが、意図不明のウインカーと、不意打ちのブレーキランプを繰り返す先行車に苛ついていた。

 独り毒づくなんてみっともないと、いつもは思うのに汚い言葉が口を突く。

 少し気を効かせれば判ることなのに、それが出来ないために私の仕事まで滞る。いつもは笑顔で済ませる些細な事が、非難めいた言葉に入れ替わる。

 スタッフ達が萎縮して、オフィスの空気がギクシャクとする。

 そんなものだろう、といつもは見過ごす矛盾した問いかけに、ついつい怒りを覚えて理屈責めにする。知らぬ間に声が大きくなっている。

 慌てた上司からの詫びの電話を貰っても、心は捻れたままで得るものは何一つ無い。

 いったい、どうしてしまったのだろう。この苛つきの原因は何なのだ。

 こんな事は稀にある。決まって原因は些細な事の偶然の積み重なりなのだ。はっきりと大きな原因が一つあるというなら、解決はスムーズで晴れやかだ。

 けれど、大きくもなく些細な腹立ち事が、次々と細波のように押し寄せて来る。最初は気にもならないが、やがて小さなササクレになる。

 ササクレが増えると心に凍みて来る。ついには執拗なボティ・ブローのようになって、我慢の出来ない怒りがこみ上げる。

 その時には既に殴りつける相手は居ないから、余計に腹が立つし、すっきりとは解決しない。

 小さな波を起こした相手は、見当たらず。目の前には本当に些細なヘマをした可哀想な生け贄が居るだけ。

 なんとも厄介だ。

 仕方なくその生け贄に怒りをぶつける。それも論理的にねちねちと、いかにも「あなたは些細なミスだと思っているかもしれないが、実は大きなヘマをしましたよ」と言わんばかりに。

 こんな時の「自分」は自分でも持て余してしまう。そうなると、解決する手段は一つしかない。

 そう唯一の私の場所で・・貴女の肌に刻印をする。