空中楼閣*R25

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2009-01-01から1年間の記事一覧

天空の金華豚

水に囲まれた広大な緑が眼下に広がり、その遥か向うには高層ビル群が外輪山のようにそびえ立つ。 かつて結界を張ったといわれる都は、64年前のこの日、今日のような晴れ渡った夏の日に、敗戦を迎えたという。 正午を少し回った時間にシャンパンを掲げ、金…

生まれながらに

10年以上も棲んでいた金魚の一匹が、水底に痩せた身体を横たえて、動かなくなっていた。 生命とは「動的な平衡」だと誰かが言っていたが、それは私に言わせれば、水を満たした器みたいなものだと思う。器は常に世間とか、自分の心情とかで揺らされていて、…

見えないもの

目まぐるしく変わる天気に、予報が当たっているのか、外れているのかすら判らなくなっている。 人は理解不能なものを怖れる。予測できない、想像できない、という感覚に過剰に反応する。過剰に楽しいことを連想するか、過剰に不安の連鎖に陥るか、する。 そ…

混沌として曖昧に滲むもの

彼に言わせると「あご髭の男」は全部、あの俳優に見えるらしい。「長い髪の細面であの年齢の女」は、全部、あのアイドルに見えるとか。 まったく彼の顔の識別の能力ときたら、彼が覚えているカクテルの名前より少ないに決まってる。彼が銘柄で思い出せる日本…

書斎にて

カウチに寝そべって、うたた寝をしていた。深くなった眠りが、急に引き戻される。瞬時、視線を取り戻して、また眠りに迷い込む。 水の中に沈んだり、浮かんだりの心地よさみたいだ。 視界が焦点を結んだ一瞬、ふと疑問符が湧き上がる。沈みゆく意識を引き止…

シャングリラ

大学の図書館の三階はアーカイブとなっていて、よほど古い医学論文の原著でも探すのでもなければ、滅多に訪れることもない。 なにしろ、内容だけを読みたければ、今はネットのオンライン検索システムで手に入る。この図書館では検索ブースが一階にずらりと並…

来し方を思えば

貴女という水の器に、いろいろな石が投げ込まれて、静かだった水面を乱しては、底へと石が沈む。 幾重にも沈んだ石の重みで、器は揺れなくなるけれど、水は浅く、溢れやすくなる。 人は、時々、溜め込んだ石を吐き出さないといけない。自分に丁度いい、重さ…

なるほど、だが、しかし

「未来を予測する唯一の方法は・・未来を創るパワーを持つことである」 まあ、そうでしょうけど「今は、明日をも知れません」という時もある。 そんな時は、もう少し内向きな言葉がいいな、と思うのだが。

聞きながら

貴女から貰った「雨音」という名のコーヒーが、まだ冷凍庫の中にある。心がざらついて、どうしようもなくなると、私は「雨音」を淹れる。 柔らかな香りの優しい甘さが口に広がる。 この世界では五秒間に1人が人生の幕を引く。その内の僅かだけれども、唐突…

濡れながら

百日紅が雨に叩かれて赤い影を作り始めた。濡れたアスファルトに広がる赤い花びらを乱して、バイクが走り過ぎる。 雨粒で装飾された窓ガラス越しに路面を眺めながら、私はベッドの上で立ち膝をしていた。 その窓の向うの風景が、時々、霞んでしまうのは、腰…

某日、午後1時半

硬い音とともに、彼は床に小さなグラスを置いた。「過冷却になってるんだ。静かに冷やされて、自分が凍ったことに気付いていない」 彼の手には、白い冷気を垂らすような凍ったボトルがあった。「こうやって、注ぐと、気が付くんだ。自分が凍っているべきだっ…

某日、午前11時

冷凍庫に寝かせてあったガラス瓶を取り出す。たちまち、手の中で透明な瓶が凍っていく。 アンティークな鉛色の小さなグラスに、過冷却のズブロッカを注いだ。 夏の正午前、きついスピリッツを飲みたくなった。注がれた酒は、氷点下でも凍ることなく蜜のよう…

弛緩する身体

奥まで含むたびに、鎖が床を叩く。巻き付けた紅い皮の首輪の重さを感じさせられる。 自分で自分を犯すように、喉の奥までディルドを呑み込む。嗚咽を数回堪えると、意識が遠ざかる。 力が抜けて腰が落ちる。床に突いた膝が左右に滑って、腰が開く。ベルトで…

視姦される肌

貴女が欲しいのは、甘く温かなキスなんかじゃなくて、本当はこんな箱ではないのですか。キラキラと光を浴びて煌めくような透明な箱に、閉じ込めれたいのではないですか。裸に剥かれたままで。 ショーツを脱いだら、紅いパンプスを穿きなさい。お似合いの紅い…

狂おしさは苦しさゆえか

貴女の腕が信じられないような力で私の背中を抱き寄せる。深く曲げた膝で足首を交叉して、私の腰を締め付ける。「ああ、これが欲しかったの。お願いだから」 私は、目を閉じて貴女の耳を噛む。これ・・これって貴女は何を切望していたのだろう。「もっと、来…

愚問を自らに

小さな「予期せぬ終わりが」いろいろとあったから、自分の環境は変わりつつあるのかもしれない、と少し前に書いた。 言葉とは恐ろしい。文字となるともっと力を持つ。更なる終わりが、後に続いた。 また1人、恩師が世を去った。それも突然に。 これで私に道…

殻を脱ぐとき

梅雨だというのに、まるでカンナの真紅が似合いそうなくらいに真夏の空だ。 死ぬのが怖くて、眠るのが怖かったのは中学生の頃だった。怖かったのは、死ぬ事もだけれど、書棚の奥に隠した緊縛写真や官能小説を見つけられるほうが怖かったかもしれない。 今は…

白いテラスで

前で結んだリボンを解くだけで、簡単に裸の腰が現れた。貴女の飾り毛は濃くて長い。「楊貴妃も長かったのよ。中国では美人の特徴らしいわよ」 5階建ての最上階、視界を半分ほど隠すような木々があるとはいえ、見上げれば部屋のテラスに置かれた白い丸テーブ…

爛れた時間は

腰を動かすたびに、濡れた皮膚が捲れ上がり、ねっとりと粘膜が絡み付く。鈍く痺れるような快感が、お互いを行き来して、少しずつ臨界への螺旋を昇る。 極みが近づくにつれて貴女の部分は私を締め付けて、押し戻し、手繰り寄せ、私の体液を受け止めようと、食…

週末の午後

カウチに寝転がって、目を閉じていた。裏庭から老夫婦の会話、そして、隣りからも若い夫婦の会話。そんなふうに人は出会い、暮らし、年を経るのだ。 私は、無駄なような時間を過ごしていた。何をするのでもなく、何を惜しむのでもなく、無駄という時間が半ば…

熟していく

「今日からは、触れないように」 ええっ、だって、朝と夜の二回は逝きなさいって私に命じてたのに。それも先週は、夜にも二回、続けて逝きなさいって。 刺激され過ぎて私の雌しべは、体を捻っただけで下着に擦れて声が漏れそうなくらいなのに。「貴女の果肉…

相対という絶対スケール

時々、感情がすれ違うのは、仕方の無いことだ。何故って、私が刻む時間と貴女が刻む時間が、同じ早さに見えて、実は違うものなのだから。 人はそれぞれの時間に自分を浸さなければ生きられない。生きるということは、時間の流れそのものだから。 昔、瀬戸内…

グラスの指

高い湿度を引き受けて、グラスの表面がびっしりと水滴を結ぶ。 その水滴をなぞって集めるように、貴女の指先がロンググラスを撫でる。ネイルカラーが濡れて、滴が流れてカウンターに水溜まりを作る。 私は、貴女の指を眺めながら、ロックグラスの氷を指で突…

鬱々と雨模様

ふと窓の外を見上げれば、一輪だけ夏椿が咲いていた。いつの間に、と目を凝らせば、他の枝にも今にも綻びそうな花蕾がぎっしりと並んでいる。 もう、シャラの花が咲く季節なんだ。夏椿とは良く言ったもので、白い椿のような花はポトリと・・首から落ちて散る…

梅雨のあとさき

この居心地の良い語句を見いだしたのは、誰だろう。「梅雨のあとさき」に「トパーズ色の風」だと、最近、白い犬のお父さんに出て来る歌手になってしまう。 まさか、彼が最初とは思えない。が・・調べても判らなかった。「あとさき」には、順序が逆になってし…

蛇のやうな遊びをしよう

幾重にも微細な雫を肌に纏って、歓喜の吐息を紅い唇から漏らす。 貴女は濡れた草原に横たわり、雨の中、欲情を受け入れて快楽に女を委ねた。 銀色の粘液を肌に刻み付け、愛撫の軌跡を人目に晒す。柔からな起伏から官能の粘膜突起へと、道筋を見せつける。 辱…

淫らの連鎖

見上げると、銀色のスプーンと生卵を割り入れたカクテルグラスを手にして、逆さまになった彼が私を見下ろしていた。 逆さまなのは私のほうで、顎が胸に付くほど首を曲げて、後頭部を朱色のソファの座面に埋めていた。 素肌の腰は背もたれに委ねて、全裸の私…

卵の連鎖

卵焼きは関東は甘く、関西は塩味、あるいは味醂と出汁を入れた出汁巻き卵らしい。 私は微かな塩味と薄く出汁の利いた卵焼きが好きかもしれない。「かも」しれない、というのは、そういう卵焼きにまだ巡り会っていないからだ。 母が私に作る卵焼きは、関東出…

静かな日々には

この部屋にいると、月に数回、外の気配が消えてしまう朝がある。昔、「飛ぶ教室」という児童文学の本を、誕生日に買ってもらったのだが、この部屋は「飛ぶ部屋」なのかもしれない。 外の気配が消えるといっても、部屋の二面には大きめの窓があり、人々の平穏…

新しいスケッチ

匂い(1) 宵闇のなか 川面を渡る風に吹かれて青草が濡らすサンダルの足先を思う甘噛みをした足指と 貴女の吐息が蘇り湿った髪に手のひらで触れた熱が包んだ腰の硬さを 嗚咽する喉の奥まで深く沈めて含みながら、お漏らしなさい・・草の上私の両手に震えを…