狂おしさは苦しさゆえか
貴女の腕が信じられないような力で私の背中を抱き寄せる。深く曲げた膝で足首を交叉して、私の腰を締め付ける。
「ああ、これが欲しかったの。お願いだから」
私は、目を閉じて貴女の耳を噛む。これ・・これって貴女は何を切望していたのだろう。
「もっと、来て、もっと」
貴女の切望に置き去りにされそうだった。私は思考を停止して、貴女を逃がすまいと腰を深める。
「ああぅ・・うう、そこっ・・そこ・・イイッ」
苦悶と恍惚を一気に駆け上るように、貴女は髪の生え際に汗を滲ませた。私は舌を伸ばして、貴女の耳を溺れさせる。
湧き上がる快感から逃げようにも逃げられないまま、私は貴女に追いつき融合する。鈍い官能が鮮明な射精感になる寸前、思考を取り戻し、蕩けた意識から腰を逃れさせた。
律動とともに、二人の肌の間に熱が溢れ出る。喘ぎの余韻は引き潮のように消えていった。
胸元に汗を溜めたまま、貴女は荒い呼吸を震わせていた。
「・・人って愛し過ぎてもいけないのよね」
腰をそのままに、ティッシュに手を伸ばす私に貴女が呟く。すぐに返事が出来ない問いはやり過ごしてしまうという私の癖を、貴女は知っている。
私は黙って貴女の柔らかな下腹部から自分の痕跡を拭い取る。
「私・・自分の起きる物事に意味を考えること、やめたの」
今度はやり過ごせない。「うん」と小さく頷いてみながら、私は吐き終えた自分の硬さから精液を拭おうと再びティッシュに手を伸ばす。
貴女の指が私を捉え、唇が私をおおった。舌先で快感を探ってから貴女は言った。
「目の前に舐めたいものがあれば、それを口にするの。そうする事にしたの。でないと・・」
でないと・・。
貴女の唇が私を強く吸い、舌先が残存を誘い出す。
「だって、哀し過ぎるんだもの。一つになれたと思うと、その先が欲しくなる。そう感じると、別々だったんだと前よりも強く思い知らされる」
私は貴女を封じるように、硬くなった自分を押し付ける。
「どうすればいい?」
貴女が嗚咽するのを待って、私は腰を退いた。目に溜めた涙を一筋だけ零して、貴女は答える。
「だから、何も考えないの。未来に何かを望むのは止めたの」
苦しむために、交わるのだろうか。私は貴女の唇に腰を沈めた。苦しみは、悦びか。喜びは悲しみか。悲しみが交わりを望むのか。
カンタータ147番、人は行き場の無い苦しみに出会うと、天に喜びを託すことを望むのか。「主よ、人の望みの喜びよ」