グラスの指
高い湿度を引き受けて、グラスの表面がびっしりと水滴を結ぶ。
その水滴をなぞって集めるように、貴女の指先がロンググラスを撫でる。ネイルカラーが濡れて、滴が流れてカウンターに水溜まりを作る。
私は、貴女の指を眺めながら、ロックグラスの氷を指で突つくと、クルクルと回し始めた。
貴女の指が濡れたグラスを上下する。私の指が、グラスを掻き回す。
「ねえ・・」
私の顔を見て、貴女が呟いた。
「どうした?」
私は、視線を感じながら、貴女の濡れた指を眺め続ける。
「さっき咬まれた胸の・・先が痛いの」
貴女の視線が、蜜色を掻き回している私の指に移動する。
「ごめん、血が滲んでたものね」
「ううん、そうじゃないの。痛くて、疼くの。だから・・」
貴女の指が止まる。私は指をグラスから抜いた。
「だから・・欲しいの?」
「う・・ん。また、欲しくなって来ちゃった」
足を組み替えた貴女がパンプスの先を揺らす。
「そうだなあ・・」
「だめ?」
小首を傾げる貴女を見ていると、意地悪がしたくなる。
「じゃあ、ここでキスしてくれたら」
躊躇いもなく、貴女の唇が近づく。
目の前のバーテンダーと、背後の客の目を、一瞬だけ気にしてから、貴女の肩を抱き寄せて、すぐに離れようとした唇を引き止めた。
舌を絡めながら私だけ腰を浮かし、椅子から立ち上がってから唇を離した。
「良い子だね。・・抱いてあげる」
上体を屈めた姿勢で貴女の耳元に囁くと、抱いた腕で貴女を立たせた。
貴女は一番、魅惑的なオンナの表情で、私に体を寄せる。バーテンダーの呆れた苦笑いを脳裏に横切らせながら、店のドアへと歩き始めた。