濡れながら
百日紅が雨に叩かれて赤い影を作り始めた。濡れたアスファルトに広がる赤い花びらを乱して、バイクが走り過ぎる。
雨粒で装飾された窓ガラス越しに路面を眺めながら、私はベッドの上で立ち膝をしていた。
その窓の向うの風景が、時々、霞んでしまうのは、腰から不意に這い上がる快感のせいだ。
私の肩口から下は、窓枠に遮られて外からは見えない。その窓のある壁とベッドの間で、床に膝を突いた貴女が掌に黒文字油という名のアロマオイルを拡げ、その手から私へと塗り付ける。
塗り付けるときは、必ず唇で私を含むのだった。分散する触覚が、不意に快感を疼かせた。
ユーカリ油に柑橘類を加えたような、爽やかな甘さの木の香りが心を穏やかに緩めていく。湿気の多い雨の日の空気まで心地よくする香りだった。
黒文字油というクスノキの仲間から精製されたアロマオイルらしい。もともとクスノキからは樟脳を作る。防虫殺菌効果があるのだろう。
私の硬さに両手を添えることもなく、濡れた自分の唇を拭うこともなく、貴女の薄紅から唾液が滴り落ちて乳房を濡らしていた。
濡れた乳房は産毛を立て、縮こまるようにして乳輪に波紋を寄せた。
「温かいね、火照るくらいに」
揺れる貴女の頭を見下ろして、私が言う。
「オイルは、熱を閉じ込めるから」
口から私と唾液を零して、貴女が答える。
「塗ってないところも、熱くなってるけど」
貴女は「ふふ・・」と笑って、笑った唇で私を呑み込んだ。唾液と私が混じり合う音とともに、貴女の両手が私の背中に回され、香油が塗り拡げられた。
「ああ、気持ちいい午後だ」
私の言葉に無言で頷くように、首を前後に振った。振ったまま、喉の深くで私を捉える。
貴女の手が私の腰を引きつけ、じっと留まって何かを堪えようとする。眉根を寄せて、苦悶の表情とともに、肩を震わせた。
「うううぇ・・ええ」
嗚咽に耐えきれずに身体ごと顔を後ろへ逸らす。唾液を垂れ流しながら、口で大きく息をしてから、涙目で私を見上げた。
「もっと、舐めてていい?」
「気持ちイイなら」
「うん・・気持ちいい、苦しいけど」
貴女が私を引き寄せ、大きく口を開いて舌で硬さを誘い込んだ。私は貴女の頭を自分の腰にゆっくりと押し付けて、窓の外に目をやった。
百日紅の赤い影が乱れて、散り散りになっていた。
「ぅううう・・おええっ」
腰のほうで貴女が身悶える。私は貴女を放さない。貴女も私の腰を抱き寄せる。引き寄せた手の力が抜けるのを見計らって、貴女から硬さを抜き去った。
俯いて咳き込み、震える貴女は、途切れ途切れに息を吐き、鳴き声を漏らした。私は貴女の髪を撫で、硬く濡れた乳房の先にそっと触れ続けた。
しばらくして。乱れた呼吸が収まり、貴女が顔を上げた。とても淫らな表情だった。
「ねえ、ベッドに横になって」
「いいよ」
私は何事も無かったかのようなトーンで言葉を返した。
「私、欲しくなっちゃった」
「じゃあ、自分でしていいよ。奥まで入れなさい」