今は、欲しいだけ
彼女からの相談事に思わず、苦笑いをしてしまう。
「彼ったら・・来週、頑張って時間つくります・・だって。忙しいけど、射精のためなら何とでもする、と聞こえて仕方ないわよ。なんか、逢う気が失せる」
もちろん、それまでの彼の言動があってのことだけど。
「平気でいうのよ。そんなに逢えないと、俺、次のデートまで射精を我慢できるか自信ないよ、って」
まあ、正直な彼だと言えばそうだと、その時も内心、苦笑い。何故って、私は欲しくて仕方ないのだから。
月の周期でも、排卵日とかには堪えきれない衝動が湧き上がる。眠れなくなると、指を濡らしてしまう。トイレで下着を下げたときに滴り落ちて、自分でも驚いてしまう。
でも、その周期なら、仕事にかまけて何とかやり過ごせる。ところが、どうも違う周期が私を衝き動かしている。もっと長い周期で、うねりのように静かに満ち干きをする。
だから、気づかない間に浮ついている。腰が落ち着かない。膝をキツく締めたくなる。ゆっくりとやって来るので、気がついたときには呑み込まれ、溺れている。
とても厄介で、深い欲情。
その波に排卵が重なると、どうしようもなくなる。早く彼に抱かれたい。壊れるほど叫ばして欲しい。狂うほど揺らして欲しい。
彼女から相談されたとき、私はタイプの男性と道ですれ違ったなら、手当たり次第に押し倒しそうなくらいだった。だから、苦笑してしまった。
今の私は、逢う気が失せるどころか、その気で満々になってしまう。お願い、頑張って時間つくって、という感じだ。
とは言え、継承すべき遺伝子を守るメスの性か、自分の遺伝子をばらまく事を第一とするオスとは違って、ストライクゾーンが狭い。
他の誰かと、と妄想はしても、実際となると彼しかダメなのだ。
そんな私の気を知って知らずか、彼ときたら卑猥な言葉で焦らすだけ焦らして、なかなか逢ってはくれないまま。
昨日だって、朝から雌しべにメントールを丹念に塗って、ショーツ無しで通勤しろとか、会社のトイレで指を沈めろとか、一日に四回もメントール責めにしておいて、最後には乳首だけで逝きなさいと。
長い時間かけて痛くなるほど胸の先を弄ったあげくに、逝けそうで逝けないまま宙吊りになったエクスタシーに悲鳴を上げたら、こう言われた。
「アヌスに塗り付けて、指で可愛がってあげなさい」
「意地悪」と返したら、「花びらと雌しべに触れたらダメですよ」と。
今日は、もうどうしようもないほど、溢れて来る。
「ねえ、その彼。私に紹介してよ」
私の言葉に、相談してきた彼女が一瞬、目を丸くしてから、まさかねというふうに笑った。
「だめよ。変態なんだから。縛られて、されたい放題にされるわよ」
ああ、なんて魅力的な言葉。
「だって、愛想尽かしてるんでしょ?だったら、良いじゃない」
「え・・バカ言わないでよ。まさか・・本気?」
「だって、その彼を気が合いそうなんだもの。今だけね」
彼女が急に不機嫌そうな顔で言う。
「だめよ。そんなの、いくら貴女でも」
「そうよね。ゴメン、冗談よ」
きっと来週、二人は思い切り抱き合うんだろうな、と思う。私も彼に催促の電話しなくちゃ。ご機嫌斜めな振りをして。
そうそう・・女には二通りある。自分という女か、それ以外の女か。だから他の女には渡さないわ。