愛なんて言葉は
物語というのは、突然に落ちて来たりはしない。
幾つかのフレーズが不意に浮き上がり、用水路の渦でぐるぐると回りながら浮かぶ小さな水草みたいに、くっついたり離れたりしていることが多い。
偶然の繋がりが関係なさそうなフレーズを結びつけて、物語になっていく。
ところが、本当にごく稀なのだけど、いきなりドカンと落ちて来る。それも始まりから終わりまでのワンセットで来るのだ。大きな隕石が粉々にならずに地表に届くみたいに。
徒然に文章が浮かぶ場合も多い。でもそれは、物語とは言えないような由無し事なのだ。例えば、こんな具合に連鎖していく。
「見返りを求めないのが愛なんだよ、なんて平気な顔で面と向かって女に言う男達って、どうしようもないわよね」
皮肉たっぷりの貴女の言葉は、愛情もたっぷりなのだろうか、と「そういう男」に限って都合のよいことを思ったりもする。
「見返りを求めると、裏切られることのほうが多いからかもね」
「傷つくのが怖いだけじゃない」
「それもあるけど、ちょっと違う」
そう、「ちょっと違う」が常套句だったりもする。
「裏切られても許せるのが愛かもなあって、だから愛は傷つかない」
「私は、許さないわよ。だって愛してるもの」
「貴女の愛って、強いなあ」
「そうよ。負けないわ」
言葉遊びはこれくらいで。