雨音の午後
もうすぐ正午だった。少しだけ明るくなった窓を眺めながら、ロゼのコルクを抜いた。渇いた音とともに、細かな泡が薄紅の染まる。
貴女がシャワーを終えるのを待つ間に、グラスを用意した。初めて触れてから24時間を共にする。それが、二人で逢うために互いが決めた条件だった。
午前10時にラウンジで顔を合わせ、そのまま部屋に向かった。私がドアを閉める間に、貴女は窓際まで近づいて雨の街を見渡していた。
「眺めがいいと、雨に濡れるビル街もいいものね」
言葉が終わる前に、貴女の腰を抱いた。柔らかな感覚が貴女の腰の感触なのか、貴女の香りなのか、判らないほど心地よかった。
唇を重ねる瞬間、貴女が少しだけ躊躇った。それでも触れた唇に忍ばせた舌に応えるように、貴女の舌が絡み付いた。
キスをしながら、私の手がスカートをたくし上げた。膝を軽く折って、摺り合わせながら、逃れようとする貴女の身体を引き上げるようにして、キスを続けた。
手のひらに湿った肌触りの起伏を感じた。キスの下から吐息が漏れた。
「外から見えちゃう。自分で脱ぐから、カーテンを閉めて下さい」
緩めた腕の中から、腰を退いて貴女が逃れた。貴女がパウダールームに消えている間に、私は渋々、レースのカーテンを閉めた。
「嫌、ちゃんと閉めて」
バスローブを纏って出て来た貴女はそう言った。肩まで届いている髪の先が濡れていた。
「いいよ」
分厚いカーテンを閉じると、部屋は闇に覆われた。私は敢えて灯りを点けずに、貴女のもとへ歩み寄った。髪の滴で湿った肩を引き寄せて、再び唇を重ねた。
貴女の両手が私の背中に回された。
バスローブの結び目を解いて、素肌の腰に腕を回した。私の背中から、貴女の腕がだらりと落ちた。そのままベッドに腰を下ろして、貴女を闇の中に横たわらせた。
貴女の吐息は、肌の震えとシンクロした。呼吸に声が混じり、震えがうねりとなった。溢れる蜜が私の指と唇を濡らし、腰を熱くした。
闇の中に貴女の喘ぎと匂いが満ちて、二人の汗がシーツを乱した。大きく腰を開かせると、貴女は大胆に声を上げた。
唇で雌しべを啄み、舌の先で花びらの口を愛撫した。掻き乱すたびに埋める指を増やしていった。最後には貴女の体液を吹き出して、私の手からこぼれ落ち、シーツに水たまりを作った。
腰を重ねた時、貴女は声を失った。口を大きく開いて、息を荒く吐いた。深くまで突き動かすと、絞り出すような悲鳴が響いた。
何かにすがろうとして、ようやく私に抱きついて、爪を立てた。そのまま身体を何度も震わせて、「逝っちゃう」と何度も声を漏らした。
「わあ、素敵」
明るい部屋に髪を濡らしたバスローブの貴女が現れた。
「嬉しい。ピンク・シャンパンね」
小さなテーブルのソファに座ると、冷えたグラスの細いステムを指先で綺麗に摘んだ。
「乾杯ね」
と言って、美味しそうに喉を潤わせた。軽く合わせただけのローブの前が寛いで、揃えた太腿の付け根まで見える。淡い飾り毛が大人の女の膨らみを包んでいた。
「明日も雨なのかなあ」
窓の外を眺めて貴女が呟く。
「でも、なんだか楽しそうだね」
「だって明日まで此処に居られるのでしょ?」
バスローブの前を合わせ直しながら、シャンパンの泡を揺らして貴女が立ち上がった。
「脱いで見せて欲しいな」
「ええ・・明るいもの」
「これくらいの柔らかい明るさがいいと思うけど」
「じゃあ、キスして」
座っている私に貴女が手を伸ばす。その手に触れて、立ち上がった。唇を交わして、肩からローブを落とした。
「シャンパンのキスだね」
貴女の身体を回転させて、背中から肩越しに腕を回す。二人の全裸が写るガラス窓に、細かな雨粒があたっては流れていた。
「私、なんだか、すごく楽になった。脱ぎ捨てたみたいに身体も心も軽くなった」
貴女の首筋に唇を這わせながら、空の明るさに浮き上がる乳房の肌理を眺めていた。
「ここでしようか」
耳元で囁くと、貴女の微笑みが振り向いて深いキスが始まった。