見えない世界で
貴女の深いところで、私の先端がきつく締め付けられる。シーツに顔を埋めた貴女の指先が枕に食い込んでいる。
掲げた腰が崩れないように抱え込んで、その手の先で濡れて膨らむ雌しべの感触を確かめる。
「もっと膝を拡げて」
「はぅ・・ああ」
闇の中で白い肌が汗ばんで、肌と蜜の匂いが満ちていく。目を閉じて、貴女を感じ取る。腰の位置、指の先、触れる肌、喘ぐ声、貴女の香り。
「いい・・ああ、もっと」
無意識に腰を揺らす貴女の仕草が淫らを煽る。
「見える?」
「えっ・・な・・にが」
「快感が見える気がするでしょ」
「ああ・・わかんない」
目を閉じて、腰を深くする。感覚の先端が貴女の震えを感じ取る。見えないはずの視覚の中で、甘く鈍く痺れるような色合いが広がった。
「どんな感じで、何を感じる?」
逃げようとする猫みたいに貴女が背を反らす。
「あああ・・なんか、ああ、白い感じ」
快感が深くなるほど、人は五感ではなく脳で感じるのだと思う。貴女を揺らす。貴女に尋ねる。貴女は声を出す。途切れ途切れの返事とともに、大きく哭いて歓喜を溢れさせる。
繋がった二人の間で蜜が跳ねる。音が響いて、交わりの匂いが立ち昇る。汗が滴り、肌が滑る。粘膜の触覚が鈍くなり、官能だけに置き換わる。
抱き寄せた貴女のカタチが消えて行く。
「ううぁああ・・いい。凄くいい」
「何が見えるの?」
「あんん・・見えない。光ってる・・ふわふわと、浮きそう」
指先に貴女の欲情の果肉を感じ取る。蓄えられていたものが、自由になろうとしている。貴女に伝えたいものが、貴女に与えたいという想いが膨張する。
「浮きながら、落ち・・る、みたい。ああ、ふううって・・ああ」
「欲しい?奥に欲しい?」
呼吸が乱れて、息が途切れる。
「ほ・・しい。奥に・・ちょうだい、全部」
昂った熱が臨界を超えて、二人で張り詰めた後に解き放たれた。貴女の喘ぎ声が糸を曳いた。
胸の下から鼓動を感じる。
「あ・・ああ。ねえ、何が見えたの?」
「貴女は?」
「私は・・万華鏡みたいに、くるくると浮かんだり、落ちたりして、最後・・」
「最後は?」
「判らなくなるの。身体が溶けて溢れでて」
外界からの圧倒的な情報を与えてくれる視覚は、ある意味、心の雑音にもなってしまう。だから、人は心から感じ取ろうとするときに、無意識のうちに目を閉じて雑音を遮断するのだろう。
蕩ける声、惹かれる匂い、失いたくない肌触り。視覚よりも原始的な感覚が大きくなって、最後にはそれらすら曖昧になっていく。
「あなたは、どうなるの・・」
見えるものだけに振り回されると、大事なものが見えなくなってしまう。言葉と文字に頼りすぎて、心を伝える方法を見失ってしまいがちなように。
「感じるよ。貴女が感じていることを、そのまま感じている気がするよ」