空中楼閣*R25

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ガラス窓の会議室


 隣りの部屋から、会議を始まりを告げる声が聞こえる。

 私の向かい側のデスクに居る社員の声だ。何かと訳知り顔で仕切りたがるが、そのくせ議論の内容すら理解していなくて、上司から本質を問われると見当外れな回答する男だった。

 その男の声は頭の上から聞こえて来る。はっきりと言葉までは聞き取れないけれど。

 視線だけを左に動かした。眩しい外の光に視界が白くハレーションを起こす。ガラス窓が壁一面に並んでいた。

 視線を真上に戻すと無機質な天井が少し黄ばんでいる。普段、仕事をしている空間なのに、こんな風に天井のパネルを眺めたことはない。

「声、だしたらばれちゃうよ」

 耳元で彼が囁いた。次の瞬間、私は唇をきつく噛んだ。そうしないと疼きが声となって溢れてしまいそうだった。

 胸の先をふわりと指先で撫でられた。腰が波打って、快感が全身に広がってしまう。

 会社の会議室のテーブルに全裸で縛り付けられた時から、すでに肌は敏感になっている。見なくても官能の期待に鳥肌が立っているのは判る。

 平日の午後に何故、私は仕事場で全裸にされているのだろう。しかも手足を大きなテーブルの四方に縛り付けられている。誰かがこの部屋に入ってくれば、隠しようもないどころか、そのまま犯されても抵抗もできない。

 隣りの部屋から聞こえる、例の同僚の声がひときわ大きくなった。

「声をだすと、会社の仲間に知られちゃうなあ。ここの毛まで綺麗に剃っていること」

 彼の指先が私の無毛の起伏で円を描く。快感の中心が隠れている亀裂には触れずに、淫らな柔らかさの部分だけを爪で削るように線を描く。

 声を出せずに、頭だけを左右に振った。髪が乱れて視界を邪魔する。

 ビルの角に位置する大きな会議室は、仰向けにテーブルに括られている私の左手と足先が開けた窓になっている。右手が出入り口で、頭の上には隣りの会議室との間のドアがある。

 声は、ドアの隙間から漏れてしまう。

 彼は私の足元に立って、私の肌を見下ろしながら、時々、指を走らせる。内踝から膝の内側へ、腰骨から恥骨の起伏へ、ウエストラインを撫で上げ、乳房の裾野で円を描く。

 肌に落ちる彼の影にさえも、身体を刺激されている気がする。彼の影に犯される。

「ここに入ってるのかな」

 足元から少し離れた場所から彼の声がした。

「あ・・は、はい」

 持って来るようにと言われた大きめの化粧ポーチのことだ。入り口ほのうの椅子の上に置いた。

「電池も新品に換えたね」
「・・はい」

 頬が火照る。

「じゃあ、これを」

 急に声が頭の上から振って来る。視線を天井から移すて、彼を見上げた。両手が頬に降りて来て、私の耳がヘッドフォンで被われた。アンビエントな電子音が耳から注がれた。それが、次第に大きくなる。

 自分の声のボリュームがこれでは判らない。つい、大きな声を出しそうな恐怖にかられた。わざと掠れた声で呟くように助けを求めた。

「聞こえないと、声が・・大きな声がでて、ばれちゃう」

 彼がヘッドフォンを外してくれる代わりに、微笑みながら私の一人遊びの道具を片手でかざした。

 彼の意図が読めて、恐怖心に胸が苦しくなる。同時に、腰の中心が蕩け出した。いやらしいペニスのカタチが私に埋められる。こんな時間に、こんな場所で、身動きもできないまま、声を出すことも出来ずに。

 いや、だめ。声が漏れても、自分の声の大きさが判らない。このままじゃ、大きく喘いでしまう。隣りに聞こえたら、きっと誰かがドアを開ける。

 頬に彼の手が触れた。視点を合わせると、彼の手にはアイマスクがあった。

「だめ・・だめ、許して」

 涙で彼の意地悪な笑顔が霞んだ。顔を左右にイヤイヤをするたびに、涙が流れ出た。

 視界が塞がれた。ヘッドフォンからの音楽が意識を占領する。でも、それは短い時間だった。彼の手が私の起伏を捲りあげた。きっと雌しべが剥き出しになってる。

 意識が混乱する。彼の指を音楽が遮る。晒される感触が、見えない視界の恐怖に消されてしまう。

「ひぃ・・」

 無意識に背中が反って、声が漏れる。多分、漏れた。快感が押し広げられて行く。鋭く串刺しになって、やがて鈍い熱になる。

 ああ、だめだ。声が・・でちゃう。