空中楼閣*R25

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覚醒する世界

 自分の秘部すら見たことが無いのに、女の身体には持ち主すら知らない感覚に満ちている。

 彼に触れられる部分の全てが、自分のものではなくなっていく。セックスとはそういうものなのだろうか。だとしたら、今まで私は随分と遠回りをしたような気がする。

 セックスという言葉すら当てはまらないのかもしれない。少なくとも、今までとは違う。それはキスする以前に、彼に見つめられた時からか、あるいは、悪魔のような言葉を囁かれた時からだろうか。

 自分が秘めていた淫らな感情を見透かされ、解き放っても良いのだと彼に微笑まれた時からだ。視線だったか、声色だったか。ともかく、とても甘く、痺れる感情を植え付けられた。

 まるで、吸血鬼に魅入られた映画のヒロインのようだった。

「さあ、こっちにおいで。お前の白い首を私に捧げなさい」

 そんな風に囁かれた女みたいに、私は心を空っぽにして彼の前で性を晒した。最初のときは、緊張と羞恥で夢中だった。彼と交わったときに、知らぬ間に涙が溢れていた。

 キスの感触は思い出せないし、どんなふうに何処を弄られたのかも判らない。時間という記憶が抜け落ちていた。ただ、肌の内側に溜め込んでいたものが、涙となり、唾液となり、汗となり、愛液となり、文字通り失禁してしまうほど、心地よい時間だった。

 そう、帰り道には静かに雨の降っていた。

 昔は雨の日が煩わしく、憎らしい程だったのに、いつから雨の日を好きになったのだろう。

 二度目は、時間の都合で肌を合わせることが出来なかった。それでも、シースルーエレベーターの中で、下から上へと流れる風景を眺めながら、落ちるようなキスをした。

 膝の力が抜けて、腰から崩れそうだったのを彼が支えてくれた。

 人ごみの中で繋いだ手の指を絡め合うだけで、呼吸を忘れてしまった。「だめ、逝っちゃう」と、私は何度か呟いたらしい。彼からそう聞かされた時、そんな馬鹿なと思ったが、言われればそうだったかもしれない。

 ただ手を繋いだだけなのに。

 自分の身体の知らない部分を、彼が解き放っていく。彼は、それが男として嬉しいという。でも、私だって、自分が解かれて行くことが嬉しくて仕方ない。それが、彼の指でだから。

 次に逢うときは、彼の視線と囁きの中で、指と唇で溶かされながら、彼に貫かれたい。私の知らない私を身体ごと、心まで。

 きっと彼は私を辱める。明るさのなかで腰を開かせる。私は自慰を晒し、蜜を垂れ流す。嗚咽を漏らし、涙を流す。彼の前で、私は私でなくなる。

 ・・違う。隠していた、もう一人の私。光と影のように、ようやく一つになれる。本当の私で彼に抱かれるんだ。雨の日が好きになった私で。