桜色の媚薬
乳白色をした白磁の湯飲みに塩漬けの蕾を入れて、彼がお湯を注いだ。立ち上る湯気の中で、桜が身悶えながら解けて行く。
「貴女の花びらみたいだね」
彼の言葉に顔が火照りだす。
「え・・」
言葉を返せないのは、頭の中にイメージが浮かんでしまうから。彼の膝の上で、自分の指で花びらを開く私の映像が、目の前で解かれる桜色と重なってしまう。
「どうしたの。まさか桜湯を眺めて濡れたりはしないよね」
彼の指が私の耳に触れて、形を確かめるように緩やかに這う。
「・・あっ・・だめ」
首を傾げながらも、鳥肌が立つ。乳房が強ばって、腰まで疼く。あ、溢れてる。
「耳のここの切れ目はね」
桜が開きながら、お湯に塩味を拡げて行く。
「うん・・あ、ああ」
「女性の性器の断面を現すんだよ」
「・・えっ」
「ほら、ここの切れ目の幅が、貴女の口の幅。深さが子宮までの距離」
「そ、そんな・・恥ずかしい」
「人相学だよ」
ミルク色の湯飲みの底で、桜の花が溶けそうに開いている。
「花びらが開くと、白湯に塩が馴染む。貴女の蜜と同じだね」
彼の指が耳たぶの上の切れ目をなぞって上下する。
「こんな風に、今夜、交わろうね」
ああ、ダメだ。また彼の思うように愛撫されている。桜湯で濡れるなんて。
「ああ・・う」
彼が舌先で耳に触れた。そのまま唇に包まれた。
「だ・・め・・」
動けなくなる。熱い口の中で、身悶えながら私の耳が蕩けてしまう。舌の先が器用に耳の窪みを撫でていく。
「あ・・あああ」
動けないまま、開いてしまう。濡れた部分から体が曖昧になって、春の空気を淫らに染める。
「ほら、桜湯と同じだ。塩が滲んで来た」
耳たぶに意地悪く歯を立ててから、唇を放した。
「さて、飲み頃だね」
何事もなかったかのように、彼は湯飲みを持ち上げて私にすすめた。
「ほら、貴女の味がする。桜と同じ色だしね、貴女の雌しべ」