事の初め
鏡の前で膝を開いて彼に腰の中心を拡げられた瞬間、グロテクスだと思った。
自分の真下に別の生き物が密かに息づいていた。淫らな生き物、そのものが彼の言う「おんな」の入り口なのだろうか。
子宮という球根から首を伸ばして腰の中心に隠花を開く、そんな生き物だった。私が生まれてから、ずっとこの生き物は成長してきたのだろうか、私が幼く淡い恋をして、綺麗なものに心踊らせている間にも。
それまで感じたことのない鈍い痛みがやがて鋭く存在をまして、赤い体液をトロリと流した時に、私は「その生き物」の存在を生まれて初めて意識させられた。
以来、月に一度はそんな厄介さを私に植え付けてきた。
否応もなく、その部分は存在を主張して私を煩わせた。私の「おんな」の部分は、私とは無関係に私のその部分で育っていた。
幾人かの男たちが触れようとするたびに、私はその部分を憎んだ。それは、男の歪んだ気持ちを誘い出す悪魔のように思えた。・・貴方もこの花が欲しいんでしょ、そう思えてしまった。
だから、心惹かれる男がその部分を欲しがるから与えるという感覚は、心が惹かれれば惹かれるほど、とても煩わしかった。
私が少しずつ煩わしさから開放されたのは、彼がそれを「貴女の月」と名づけてからだった。
確かに私の「おんな」は満ち欠けをする。
「ほら、月が蕩けてきた」
彼の指が花びらの上にある張り詰めた突起を撫でまわす。そのリズムに誘われて、私のアヌスが呼吸をする。
やがて腰が揺らめき、どうしようもない快感が背中から這い上がり、脳を麻痺させて視界を滲ませる。
疼きに周囲が霞んでも、鏡の中で蠢くイヤラシイ粘膜の花びらが網膜に刻みつけられる。別の生き物のように、大きく呼吸すると透明な糸を吐き出して、ふしだらに開いた口からアヌスのほうへと流れ出てきた。
「こんなに・・内側まで見えてる」
突起を弄っている彼の指が、アヌスに辿り着きそうな粘液を、その手前で掬い上げた。そのまま指先で受け止めると、丁寧に溢れでた部分へと納め戻した。
「あ・・あぅ」
視界が閉じてしまう。背が反って、猫のような声が漏れる。
私ではない、私の「おんな」が私を支配し始める。もう、自分ではコントロールが出来なくなる。このまま「おんな」に身を任せたくなる。
「気持ちよさそうだね。嬉しい?」
虚ろな視線で私は頷く。嬉しい。彼の指に導かれた、そのグロテスクな生き物が私を解いていく、この時間が嬉しい。
「子宮まで悦んでる感じだね」
「ああ、んぅ」
甲高い声が喉を震わせた。彼が囁きながら耳たぶに歯を立てて、舌先でピアスを舐めた。
トロリ・・腰の奥の「おんな」の熱が崩れて花びらから顔を覗かせる。恥ずかしさに鏡を見られない。
「ここ、可愛いよね。正直に溶けて、素直に震える」
スルリと私は彼の指を呑み込んでいた。彼が私、「おんな」に触れてそこを揺らす。だめ、私という殻が融解してしまう。「おんな」という芯が溢れ出す。
そう、可愛いかもしれない。彼に言われ続けると、そう思えてくる。密かに潤みながら育った私に棲む「おんな」という生き物。
「もうすぐ、漏らしそうだね」
妖しく動く彼の指の付け根に、私の白いとろりが纏わりついた。私の「おんな」が彼を絡めとるように。