雨模様
今にも泣き出しそうな空だった。彼なら「泣き出しそうな、と最初に表現したのは誰だろうね」と、言いそうだ。現にさっきもこんな事を言って来た。
「雨模様って、どんな模様なんだろう」
雨模様の模様は、図柄とかの「文様」でなくて予測の「模様」でしょ、と色気の無い返事をしたくなった。そう、不機嫌だから。
彼は「しっとりと雨の日もいいね」と言うけれど、私は嫌い。朝の髪型が決まらない。それに、普段でも足先が冷たい私には、冷たい冬の雨は最低なのだ。
雨が降って来た。こんな日は外には出たくない。
「そうだね。こんな木曜は、二人でベッドの中から眺めていたいなあ。窓ガラスを濡らす雨を」
外出は嫌だな、と伝えたら、彼がそう言った。
確か、あの日、あのホテルの部屋には、天井から膝の高さまでの縦に細長い窓が二列あった。その窓はベッドの足元の方にあったので、二人は枕を移動させて、頭の位置を逆さまにして窓を眺めていた。
雨粒が流れる向こうでは、床よりも低い位置のオフィスビルの窓の中で、ランチ過ぎの会社員達が仕事をしていた。
「さっきの、見えちゃったかな」
彼が意地悪そうに言った。そう、ついさっきまで、この枕の位置には交わった二人の腰があった。
交わる前に、彼は時間をかけて私の雌しべにキスをした。蜜音を響かせて、花びらを指で掻き回した。だから、窓から見えることは判っていたのに、わざと恥ずかしがらせるのは、いつもの彼の愛し方だった。
「今度は、顔を見せてあげたりして」
彼は、右肩を下にしている私の後ろで、同じ姿勢で横たわっていた。乳房の上を抱いていた彼の腕が私を引き寄せた。空いている手が私の内腿に触れ、腰を開かせる。
「だめ・・あっ」
そう言いながらも、私は腰を後ろへ突き出して、自分から膝を開いた。視線の先に雨のガラス窓があって、その向こうではスーツ姿で働く男達が居た。
ゆっくりと彼に満たされた。腰の奥からじわりと快感が広がった。
「ああ・・気持ちイイ。あ・・こんなのって」
彼が言葉尻を捕えて囁いた。
「こんなの、って、こういう淫らな事かな」
そう、淫らだ。平日の昼下がりに仕事を抜けて、雨を眺めていた。背後から男の貫かれ、感じている表情を窓の外に見せていた。
彼のメールに返信をする。「今日は、無理かな。でも、逢いたいな。あの時みたいに、して欲しいから」