空中楼閣*R25

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某日、午後1時半

硬い音とともに、彼は床に小さなグラスを置いた。「過冷却になってるんだ。静かに冷やされて、自分が凍ったことに気付いていない」 彼の手には、白い冷気を垂らすような凍ったボトルがあった。「こうやって、注ぐと、気が付くんだ。自分が凍っているべきだっ…

某日、午前11時

冷凍庫に寝かせてあったガラス瓶を取り出す。たちまち、手の中で透明な瓶が凍っていく。 アンティークな鉛色の小さなグラスに、過冷却のズブロッカを注いだ。 夏の正午前、きついスピリッツを飲みたくなった。注がれた酒は、氷点下でも凍ることなく蜜のよう…

弛緩する身体

奥まで含むたびに、鎖が床を叩く。巻き付けた紅い皮の首輪の重さを感じさせられる。 自分で自分を犯すように、喉の奥までディルドを呑み込む。嗚咽を数回堪えると、意識が遠ざかる。 力が抜けて腰が落ちる。床に突いた膝が左右に滑って、腰が開く。ベルトで…

視姦される肌

貴女が欲しいのは、甘く温かなキスなんかじゃなくて、本当はこんな箱ではないのですか。キラキラと光を浴びて煌めくような透明な箱に、閉じ込めれたいのではないですか。裸に剥かれたままで。 ショーツを脱いだら、紅いパンプスを穿きなさい。お似合いの紅い…

狂おしさは苦しさゆえか

貴女の腕が信じられないような力で私の背中を抱き寄せる。深く曲げた膝で足首を交叉して、私の腰を締め付ける。「ああ、これが欲しかったの。お願いだから」 私は、目を閉じて貴女の耳を噛む。これ・・これって貴女は何を切望していたのだろう。「もっと、来…

愚問を自らに

小さな「予期せぬ終わりが」いろいろとあったから、自分の環境は変わりつつあるのかもしれない、と少し前に書いた。 言葉とは恐ろしい。文字となるともっと力を持つ。更なる終わりが、後に続いた。 また1人、恩師が世を去った。それも突然に。 これで私に道…

殻を脱ぐとき

梅雨だというのに、まるでカンナの真紅が似合いそうなくらいに真夏の空だ。 死ぬのが怖くて、眠るのが怖かったのは中学生の頃だった。怖かったのは、死ぬ事もだけれど、書棚の奥に隠した緊縛写真や官能小説を見つけられるほうが怖かったかもしれない。 今は…

白いテラスで

前で結んだリボンを解くだけで、簡単に裸の腰が現れた。貴女の飾り毛は濃くて長い。「楊貴妃も長かったのよ。中国では美人の特徴らしいわよ」 5階建ての最上階、視界を半分ほど隠すような木々があるとはいえ、見上げれば部屋のテラスに置かれた白い丸テーブ…

爛れた時間は

腰を動かすたびに、濡れた皮膚が捲れ上がり、ねっとりと粘膜が絡み付く。鈍く痺れるような快感が、お互いを行き来して、少しずつ臨界への螺旋を昇る。 極みが近づくにつれて貴女の部分は私を締め付けて、押し戻し、手繰り寄せ、私の体液を受け止めようと、食…

週末の午後

カウチに寝転がって、目を閉じていた。裏庭から老夫婦の会話、そして、隣りからも若い夫婦の会話。そんなふうに人は出会い、暮らし、年を経るのだ。 私は、無駄なような時間を過ごしていた。何をするのでもなく、何を惜しむのでもなく、無駄という時間が半ば…

熟していく

「今日からは、触れないように」 ええっ、だって、朝と夜の二回は逝きなさいって私に命じてたのに。それも先週は、夜にも二回、続けて逝きなさいって。 刺激され過ぎて私の雌しべは、体を捻っただけで下着に擦れて声が漏れそうなくらいなのに。「貴女の果肉…

相対という絶対スケール

時々、感情がすれ違うのは、仕方の無いことだ。何故って、私が刻む時間と貴女が刻む時間が、同じ早さに見えて、実は違うものなのだから。 人はそれぞれの時間に自分を浸さなければ生きられない。生きるということは、時間の流れそのものだから。 昔、瀬戸内…

グラスの指

高い湿度を引き受けて、グラスの表面がびっしりと水滴を結ぶ。 その水滴をなぞって集めるように、貴女の指先がロンググラスを撫でる。ネイルカラーが濡れて、滴が流れてカウンターに水溜まりを作る。 私は、貴女の指を眺めながら、ロックグラスの氷を指で突…

鬱々と雨模様

ふと窓の外を見上げれば、一輪だけ夏椿が咲いていた。いつの間に、と目を凝らせば、他の枝にも今にも綻びそうな花蕾がぎっしりと並んでいる。 もう、シャラの花が咲く季節なんだ。夏椿とは良く言ったもので、白い椿のような花はポトリと・・首から落ちて散る…

梅雨のあとさき

この居心地の良い語句を見いだしたのは、誰だろう。「梅雨のあとさき」に「トパーズ色の風」だと、最近、白い犬のお父さんに出て来る歌手になってしまう。 まさか、彼が最初とは思えない。が・・調べても判らなかった。「あとさき」には、順序が逆になってし…

蛇のやうな遊びをしよう

幾重にも微細な雫を肌に纏って、歓喜の吐息を紅い唇から漏らす。 貴女は濡れた草原に横たわり、雨の中、欲情を受け入れて快楽に女を委ねた。 銀色の粘液を肌に刻み付け、愛撫の軌跡を人目に晒す。柔からな起伏から官能の粘膜突起へと、道筋を見せつける。 辱…

淫らの連鎖

見上げると、銀色のスプーンと生卵を割り入れたカクテルグラスを手にして、逆さまになった彼が私を見下ろしていた。 逆さまなのは私のほうで、顎が胸に付くほど首を曲げて、後頭部を朱色のソファの座面に埋めていた。 素肌の腰は背もたれに委ねて、全裸の私…

卵の連鎖

卵焼きは関東は甘く、関西は塩味、あるいは味醂と出汁を入れた出汁巻き卵らしい。 私は微かな塩味と薄く出汁の利いた卵焼きが好きかもしれない。「かも」しれない、というのは、そういう卵焼きにまだ巡り会っていないからだ。 母が私に作る卵焼きは、関東出…

静かな日々には

この部屋にいると、月に数回、外の気配が消えてしまう朝がある。昔、「飛ぶ教室」という児童文学の本を、誕生日に買ってもらったのだが、この部屋は「飛ぶ部屋」なのかもしれない。 外の気配が消えるといっても、部屋の二面には大きめの窓があり、人々の平穏…

新しいスケッチ

匂い(1) 宵闇のなか 川面を渡る風に吹かれて青草が濡らすサンダルの足先を思う甘噛みをした足指と 貴女の吐息が蘇り湿った髪に手のひらで触れた熱が包んだ腰の硬さを 嗚咽する喉の奥まで深く沈めて含みながら、お漏らしなさい・・草の上私の両手に震えを…

スイッチ

たった三年前の文章なのに、なんだか自分から紡ぎ出されたとは思えないくらいだ。 たった三年なのに、私は変わってしまったのだろうか。もっと以前には、もっと綺羅綺羅と冷たかったのに、三年前には妙に艶っぽく色めいていて切なく、優しい。 今は、どうな…

五月の風景画

序文・・犀星に想う 蕩ける貴女の緋色から 零れ堕ちる涙は糸を曳いて二人をヌラヌラを縛りつけていく私は肌に溺れ、意地汚くも未練を綴り 貴女は性を垂らして、素知らぬ顔で糧とする駆け引きは虚しいばかりの言葉遊びヌメヌメとした粘膜の交わりは 阿片のよ…

樹液に溶ける肌

指の先が弾力の塊を揺らすたびに、白く霞んだ視界が閉ざされる。腰から背中へと駆け上がる快感に瞼が閉じてしまうのだ。 腰が溶けて崩れ落ちそうになると、背中に痛みが走り、引き戻される。遠くで彼の冷静な声がする。雨は音もなく私の肌を濡らす。「もっと…

新緑に染みて

差しかけた傘の中で、貴女が服を脱いでいく。傘を持たないほうの腕で貴女の衣服を抱え込む。 霧のような雨が降り注ぎ、肌を包んで温もりを奪う。産毛立つ乳房は見る間に勃起して、幾重もの花色の波紋の中で先端を硬く尖らせる。 黒々とした飾り毛が下腹部で…

こんな事、してる場合か

「ねえ、私の中でオシッコしてみてよ」 貴女はそう言う。そうだな、試してみようか、と思う。もう、いろいろと終わったのだから。 射精する事と排尿する事は、開口部は同じでも、息を吸う事と酒を飲む事ぐらいに、体の仕組みという理屈で区別されている。で…

こんな夜に

・・お前に乗れないなんて、 如何にもという感じのNHKのアナウンサーが、多分、清志郎が真っ先に報道される事を「馬鹿野郎」と思っていただろう、いつものニュースの時間、それも最後に滑り込むように、教科書通りの抑揚で原稿を読んだ。 でも、原稿が走…

歪んだ心で

床に落として散らばった一円玉二枚の行方すら追えない私に、貴女の心の移ろいなど捕まえられるわけもなく、まして二人の未来など見えはしない。 不意にその感情は湧き上がり、苛つくように残虐になっていく。とはいえ、せいぜい貴女の乳首に爪を立てつづける…

意地悪な硬さ

腰を浮かせた時、彼が嬉しそうな顔で二人の狭間を眺めていた。「垂れて来てる。花びらから蜘蛛の糸みたいに、ペニスの先に」 一瞬、何の事か判らなかった。それが自分の愛液だと気が付いて体が熱くなった。持ち上げた腰が崩れそうになった。「だめだめ、折角…

箱庭に遊ぶ

目を閉じていた。それでも明るさを感じていたから、もうすっかり夜も開けたのだろう。多分、長い交わりをしながら、カーテンも閉めないまま眠ってしまったのだ。 腕を動かして貴女の曲線を感じ取る。目を閉じたままで肌を思い浮かべる。鼻先に貴女の肩甲骨が…

日々を綴る

どこかに辿り着きたいのなら、 今いる場所に別れを告げる決心が必要だ。 ・・J.P.モルガン 昔、貴女に言われた言葉を思い出す。「いつも上を目指してばかりで、疲れちゃわないの。今、居る場所で充分じゃない。今の幸せに何故、満足できないの」 鳥かごみ…