空中楼閣*R25

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性愛事情

シャドーの色を見せながら、目蓋を閉じる横顔が白いシーツに埋もれていた。「今までの彼達は、どんなふうに貴女を揺らしたの」 「え・・そんなこと」 気持ちのいい微睡みの途中で揺り起こされたかのように、甘く気だるそうに貴女が呟く。「答え難いよねえ。…

恋愛事情

ココ・シャネルは、「打算のない恋愛をするには、まず女性の経済的な自立が必要だ」と言ったとか。 裏返せば、生計を一つにする男女に打算のない恋愛は育たない、という事か。 愛だけでは空腹は満たせない、とか、金の切れ目が・・とか、とかく恋愛事情には…

貴女のカタチ

「そんな事を言われたら、どうしたら良いのか・・」 貴女の困った顔がとても可愛い。私は、どうしても少しだけ貴女を虐めるのが好きみたいだ。困った男だ。「女性はキャンバスに新しい恋を上塗りするのでしょ。だから、そのキスの仕方は」 「え・・?」 ほら…

キスのかたち

男性は、描き終えたキャンバスを壁に並べたりするのだが、女性はキャンバスに新しい恋を上塗りするらしい。 ふと思う。貴女との初めてのキスのとき、貴女のキスは、まだ一つ前の恋のときの唇のカタチだったのだろうな、と。 そう、一つ前の彼が教えたキスの…

ダイニング・テーブルとティー・スプーン

彼に誘われるまま、私はショーツを脱ごうと膝を折り曲げた。・・あ、冷たい。膝頭がショーツの潤みに触れて、すっかり濡らしていることに自分でも驚いた。 目を凝らすと、潤みが細い銀色の糸を曳いていた。「ダメ、これ以上、日常に入り込まれたら・・私」 …

休日のオフィス

台風が汚れを洗い流したような青く澄んだ光が、天空に広がった日。早目にオフィスまで来た。所用までは、まだ2時間ほどある。 がらんとした空間の駐車スペースを眺めながら、なんだか懐かしい気分になった。 そういえば、昔から休日の職場が好きだった。ど…

失うとは

二人で鍋をつつきながら、軽い気持ちでふと疑問を投げかけてみたら、貴女が言葉を失った。「え・・言葉がないというか、今更というか。まさか嘘でしょ、という感じ」 先週あたりに、なんとなくそうではないか、と思い始めて、貴女の言葉でやっと確信できた。…

模索の日々

そもそも論語の教えにしたって、反面教師みたいな警告文だろう。蹴つまずく人が誰もいなければ、足元注意、とは掲示しない。誰もゴミをすてなければ「ゴミ捨てるな」と看板は立てない。 十五にして学問に志など持てず。三十にして独立など程遠い。四十にして…

背中の向うに

彼の腕が弦楽器を奏でる弓のように、ゆっくりと動くたびに、私は消えそうになる視線を堪え、解けそうな指先に力を込める。 唇から漏れる恥ずかしい吐息が、不意の大きな喘ぎになってしまって、慌てて唇を噛んだ。 着物を裾を開く指先の感覚が消えて行く。立…

貴女の場合

目の前に映る私だけを見ていてくれればいいのに、愛おしくなると私の背中を眺めたくなるのですよね。 声になり、文字になっている部分だけを、信じてくれればいいのに、声色や行間を感じたくなるのですよね。 人は心を寄せてしまうと、その人の背中に背負っ…

曲線が好き

枯れないで待っていてくれた。留守の間、水も貰えずにいたプランターの花が、無事だった。 人間の身勝手で連休ともなれば、命の潤いも絶たれてしまう。だから、朝になって健気なグリーンを見た時に、これまた身勝手ながら安堵した。「私だって、枯れちゃうわ…

慣性の法則

驚くほどスムースだった。たった四日間乗らなかっただけなのに、ハンドルが滑らか過ぎた。サスペンションが路面の振動を丸く、けれど、遅れもなく伝えて来る。 最初にこの車に乗ったのは、もう10年近く昔。あの時と同じ感動かもしれない。 ほんの少し離れ…

切り花

同性にタフな女性と異性にタフな女性がいるような気がする。 群れないという意味で、同性に対してタフなのではないか。懲りないという意味で、異性に対してタフなのだろう。 自分を取り巻く環境を、男性も含めて利用すると言い切れる人は、同性である女性に…

ガラスの林檎

何となく抱かれることが男を繋ぎ止めておく唯一の手段だと思っていた。確信とかではなく、本当に何となく、恋愛関係とはそんなもので、それが世間一般の常識だと。 例えるなら、キスをされた時には、その唇が離れないうちにキスに応えなくてはいけないという…

後ろ手縛りの幸福

女性には、それぞれ触れてはいけないスイッチがあることを知ったのは、大人になって暫くしてからだった。 甘い感覚と緊張で少し汗ばんだまま繋いでいた手の、人差し指を貴女の指の間に滑り込ませた時だった。 驚いたように貴女が私の手を振りほどいた。「あ…

羞恥と悦楽と

耳元から聞こえる貴女の声が上擦っている「胸が痛い・・乳首が・・ああ」 「仕事中に電話した罰ですよ」 貴女は自分のデスクから声を潜めて、電話をかけてきた。オフィスには今は誰もいないから、と。「だって声が聞きたかっただけなのに、あなたが、こんな…

梓的に

「あぁ・・」 送り届ける電車の中で、隣りの座った貴女が小さな声を上げてから私の腕につかまり微かに震えた。「どうかした?」 私の肩に顔を埋めそうになりながら、貴女は頭を小さく左右に振ってから姿勢を立て直した。と同時に、握りしめた私の二の腕に爪…

日記など

五年前の八月の終わりに、こんな事を書いていた。 「砂時計、風見鶏」 いつの間にか風の湿度が変わった 人の営みなどお構いなしに 過ぎていく時間 目に見えないからこそ油断できない その気配を感じ取るには 心の余裕が必要 鳥の声が変わる 稲の緑色が変化す…

予期せぬ甘さに

あれ・・こんなに、だったけ。油断すると意識が腰からの快感に埋もれそうだった。「どうしたの?」 揺らしていた腰を止めて、貴女が怪訝そうな顔をする。「いや、大丈夫・・気持ちイイなあって」 「大丈夫って、変なの」 私は貴女の腰を両手で包んで、前後の…

生命の秘密は宇宙の秘密

とても久しぶりだったと思う。いつもの道をいつもよりもずっと遅い時間に車を走らせていた。 数年に何度か、そんな気分に陥ってしまう。自分という存在が感じうる全ての世界と繋がっている感覚。 丁度、手袋の指の一つになったような感じなのだ。自分は、根…

天空の金華豚

水に囲まれた広大な緑が眼下に広がり、その遥か向うには高層ビル群が外輪山のようにそびえ立つ。 かつて結界を張ったといわれる都は、64年前のこの日、今日のような晴れ渡った夏の日に、敗戦を迎えたという。 正午を少し回った時間にシャンパンを掲げ、金…

生まれながらに

10年以上も棲んでいた金魚の一匹が、水底に痩せた身体を横たえて、動かなくなっていた。 生命とは「動的な平衡」だと誰かが言っていたが、それは私に言わせれば、水を満たした器みたいなものだと思う。器は常に世間とか、自分の心情とかで揺らされていて、…

見えないもの

目まぐるしく変わる天気に、予報が当たっているのか、外れているのかすら判らなくなっている。 人は理解不能なものを怖れる。予測できない、想像できない、という感覚に過剰に反応する。過剰に楽しいことを連想するか、過剰に不安の連鎖に陥るか、する。 そ…

混沌として曖昧に滲むもの

彼に言わせると「あご髭の男」は全部、あの俳優に見えるらしい。「長い髪の細面であの年齢の女」は、全部、あのアイドルに見えるとか。 まったく彼の顔の識別の能力ときたら、彼が覚えているカクテルの名前より少ないに決まってる。彼が銘柄で思い出せる日本…

書斎にて

カウチに寝そべって、うたた寝をしていた。深くなった眠りが、急に引き戻される。瞬時、視線を取り戻して、また眠りに迷い込む。 水の中に沈んだり、浮かんだりの心地よさみたいだ。 視界が焦点を結んだ一瞬、ふと疑問符が湧き上がる。沈みゆく意識を引き止…

シャングリラ

大学の図書館の三階はアーカイブとなっていて、よほど古い医学論文の原著でも探すのでもなければ、滅多に訪れることもない。 なにしろ、内容だけを読みたければ、今はネットのオンライン検索システムで手に入る。この図書館では検索ブースが一階にずらりと並…

来し方を思えば

貴女という水の器に、いろいろな石が投げ込まれて、静かだった水面を乱しては、底へと石が沈む。 幾重にも沈んだ石の重みで、器は揺れなくなるけれど、水は浅く、溢れやすくなる。 人は、時々、溜め込んだ石を吐き出さないといけない。自分に丁度いい、重さ…

なるほど、だが、しかし

「未来を予測する唯一の方法は・・未来を創るパワーを持つことである」 まあ、そうでしょうけど「今は、明日をも知れません」という時もある。 そんな時は、もう少し内向きな言葉がいいな、と思うのだが。

聞きながら

貴女から貰った「雨音」という名のコーヒーが、まだ冷凍庫の中にある。心がざらついて、どうしようもなくなると、私は「雨音」を淹れる。 柔らかな香りの優しい甘さが口に広がる。 この世界では五秒間に1人が人生の幕を引く。その内の僅かだけれども、唐突…

濡れながら

百日紅が雨に叩かれて赤い影を作り始めた。濡れたアスファルトに広がる赤い花びらを乱して、バイクが走り過ぎる。 雨粒で装飾された窓ガラス越しに路面を眺めながら、私はベッドの上で立ち膝をしていた。 その窓の向うの風景が、時々、霞んでしまうのは、腰…