欲望の糸
「ドライカレー、レタス、チキンで何が浮かぶ?」
顔を合わせてからずっと甘く潤んでいた貴女の眼差しが、きょとんとした可愛い表情になった。
「え、何がって・・」
私は意地悪をするように、黙って微笑んでおく。
「それ、美味しそうってこととか?」
「それでもいいけど、例えば真っ白な磁器の深めの器に、瑞々しいレタスを敷いて、その上にライスを盛って良く煮詰めたドライカレーをかける。チキンは胸肉を塩焼きにして数切れを添える・・とか、浮かばない?」
貴女の目がキラキラしている。
「それにする」
「え・・メニューにはないよ。カフェ系ご飯だもの」
銀座「ダズル」は巨大な円錐を逆さにしたようなセラーに3000本のワインがイルミネートされて、フロアを圧倒していた。
高価なボトルにその煌めいた環境が優しいとは思えないが、きっとリストにある数十万もするワインは飾られてはいないだろう。
「トマト・スライスも添えたら彩りもいいわよね」
「スライス・トマトもここには無いと思うけど、食べたくなってきた」
目の前にスズキのポワレがフォアグラに載せられて、ローズマリーのソースを添えて出てきた。
「わあ、これも美味しそう」
私は、塩焼きチキンには黒胡椒か、あるいはトマトピューレかなどと浮気しながら、目の前の皿にナイフを入れた。
「あれっ。でも、なんでそんな話をしたの?」
濡れた唇を動かしながら貴女が尋ねる。私はシャンパンを一口飲んだ。
「次の質問がしたかったから」
「どんな?」
サービス・スタッフがシャンパンを注いでくれた。
「赤いリボン、バラ色の口紅、白い箱」
「嬉しい。プレゼントね、ありがとう」
「他には?」
「え?他って・・」
貴女はシャンパンを唇に運ぶ。
「その手首と足首を赤いリボンで縛って、唇にルージュを私が塗ってあげてから、白い箱に裸の貴女を入れる」
下唇を軽く噛んでから、テーブルにグラスを戻した。
「手は後ろね。箱の中で横向きなの?膝は曲げてもいいの?」
「そうだね。手は後ろ。ヒールは履いたまま。膝は、曲げてもいいよ。腰を撫でてあげるから」
「それだけ?」
「もっとして欲しい?」
「ふふ・・」
細い指がシャンパングラスを撫でる。
「じゃあ、これは」
「面接試験みたいね」
「キス、指、私」
貴女の視線が食べかけの料理に落ちる。
「イメージが浮かんだ?」
「もう・・いじわる」
「膝、少しだけ開いてみて」
小さく頷いてから、椅子に座り直すように腰を少し動かして顔を上げた。
「私もイメージしたよ」
「・・何が浮かんだの?」
「花びら、透明な糸、蜜の香り」