空中楼閣*R25

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感覚の深さ


 肌の汗が冷えて火照りを冷ましてくれる頃、止めどない痙攣のあとにようやく静かな呼吸を取り戻した貴女が呟いた。

「ねえ・・私ずっと、ここに居たよね」

 長い睫毛の虚ろな視線が天井を見つめている。

「どういう意味?」

 私は片肘をついて身を起こした。貴女の乾いた唇から次に発せられる言葉が、なんだか怖い。

「光が見えたの」

 背中を冷たい汗に撫でられる。

「真白なような、紫色が混ざったような。とても強い光だけど、眩しくはないの」

 貴女の横顔を固まったように見つめていると、不意に貴女がこちらを向いて、それからいつもみたいに微笑んだ。強ばっていた胸のあたりが急に緩んだ。思わず深く吐いた息を、貴女に気付かれそうで恥ずかしかった。

「私、死んでたのかな」
「それ、どういう意味?」
「だって、人が見えたの。人が立って、こっちを見てた」

 私は混乱しながらも、何か合理的な答へと導こうと言葉を探す。

「感じ過ぎたんでしょ。だって、意識を無くしてたもの」
「そうかな。そうかもしれないわね」

 もう一度、貴女が微笑む。

「で、知ってる人?」
「ううん、知らない人。女の人かなあ」

 脳裏に、源氏物語の夕顔の巻が浮かんで、独り慌てて打ち消した。六条御息所じゃあるまいし、まさか生き霊なんて。

「優しい感じの人だった。顔は見えなかったけど、なんか温かい感じだった」
「そ、そう、それは良かった。きっと天使だ。う、うん、それに違いない」

 どうにか話にけりを付けようと、貴女の肩を抱き寄せてキスをした。やっぱり唇は乾いていた。舌の先で濡らすように貴女をなぞると、唇が私の舌先をつかまえた。

「天使なわけないでしょ。エッチの最中に出て来るの?」
「え、だって、ほら、キューピットは天使だし。でなければ、快楽の天使かも」
「そんなの居ないわよ。あ、そうね。あなたかな、快楽の天使」

 なんだか、ほっとしてきた。もう一度、唇を重ねた。自分は天使でなくて悪魔かもと思いながら。

「最近、よく見えるの。感じ過ぎるからかな。でも、いつも同じ光、最初は頭の端のほうでチカチカ光るの」

 きっとそうだ。そうかもしれない。過呼吸が誘う一種のテンカン発作。

 意識を一瞬失うような欠伸発作、でもあれは記憶が無いか。ならば、側頭葉発作みたいに、夢を見るのかもしれない。

「大丈夫。とっても気持ちいいから。そうね天使かもね。天国に逝けそうだもの」

 なんだか、私には良く判らない。女性の快感は想像できないほど深いのかもしれない。

「でも、だめだよ。そっちへ行って戻って来ないなんて」
「ふふ・・大丈夫よ。ちゃんと抱っこしてくれてれば。だから、もっと・・して」

 しなやかな腕が私の首に巻き付く。今度は貴女からのキスだった。私はそのまま身体をずらして柔らかに濡れた腰を開く。

 気持ちよくなるのなら、どこまでも、そうしてあげよう。そう思った。

 貴女の両手が私を追いかけ、髪に触れる。目の前に赤く綻んだ花びらに顔を寄せ、二人の体液を溢れさせている粘膜を頬張った。

 もしかしたら、生き霊は貴女かもしれない。ふと浮かんだ、そんな考えを忘れるように、舌先を伸ばして貴女に埋めた。