空中楼閣*R25

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心なんて

 朝、目覚めて、今日も目覚めた事にそれほどの感慨もないのだか、何となく人生が続いているのか、と半ば安堵する。

「心を閉ざした方が、感じられるわ」

 明日の朝、目が覚めないのではないか。もう二度とはこの世界に戻れないのではないか、と眠るのが怖かったのは、14歳の夏の頃だった。

「あの日だって、いつもよりずっと淫らになれたもの」

 いつしか、目が覚めるのが当たり前になり、やがて眠りにつくのが唯一の安らぎとなった。そして今になって、思う。今日も目が覚めたのか、と。

「肌と心をバラバラにした方が良いのよ」

 生きていることに感激するわけでもなく、目が覚めないことを恐れるのでもない。ただ静かに、今、与えられていることに感謝する。そんな気持ちになった。

「何度だって逝けたし、何も気にしなかったから」

 誰しも、昨日と同じ朝がつまらなく思えても、また同じように季節が巡り来ることは嬉しく思う。

「ね、そうでしょ。心なんて無視したほうがセックスは良くなるのよ」

 貴女は春先が嫌いかもしれない。あるいは、梅雨が憂鬱かもしれない。けれど、待ちわびる季節はあるはずで、その季節が同じようにやって来ることに安堵するはずだ。

「何故、黙ってるの?私の言う事、間違ってる?」

 同じ朝を嘆くことはない。同じ朝の繰り返しが、同じ季節を手繰り寄せてくれるのだから。

・・確かに、沢山、逝けたよね。同じキスと同じ触れ方と同じ揺らし方だったのに。でも違うんだよ。心を閉ざしたからじゃないんだ。

「でも私、閉ざしていた」

・・そうじゃない。忘れていただけだよ。閉じ込めていたものを忘れたんだよ。だから、心が自由になったんだね。それだけだよ。

「違うわよ」

・・心を無くしたら、巡る季節だって感じないはずでしょう。全身で感じていたじゃない、あの日。

「でも・・」

・・同じ事を繰り返しているようでも、いつも同じではないのだから、いつか春は訪れるんだよ。必ず、いつものように。

 だから、次に重ねたら違う朝が訪れるよ、きっと。