恋なんて
灰色の地平線を見つめて「ロシアみたいな空・・」と貴女は言う。窓の外では、枝だけになった雑木林が春を待ちながら風に震えていた。
私は静かに体を起こして、裸のままベッドの上に膝で立って空を見上げている貴女の腰に、後ろから腕を回した。
鈍色の光が貴女の細いラインを柔らかく滲ませる。触れた手で撫で上げると、先回りするように貴女の肌が反応を見せる。
指先が届く場所より少し先で産毛が立って、乳房の下から先端へと硬くなって行く。
乳房の曲線に細かな鳥肌ができ、赤スグリ色が同心円を刻んで、中心の乳首が乳輪ごと勃起した。
私の一番長い指の爪の先が、その乳輪の縁に触れた。
「ロシア、行ったことあるの?」
私への返事の代わりに、貴女は吐息を漏らす。片方の乳首がほんのり赤いのは、私が噛み過ぎたせい。
「あ・・ちょっと痛い」
「乳首だけじゃなくて?」
「肌が、敏感になってるみたい」
「触れ過ぎたかな」
貴女は視線を落とさないまま私に訊ねる。
「ねえ・・」
「何?」
「好きとか、愛してるとか、面倒よね」
「ん?どういう意味」
私は指先を乳輪の縁に食い込ませた。
「あ・・だって、そんな言葉なんかどうでもいいもの」
私は、自分の爪の先で窪んで歪んだ貴女の色を見つめていた。
「抱かれたい。触れたい。キスしたい。憎らしい。イライラする。そんな言葉のほうが正直で、面倒くさくないから」
「ああ、そういう事か」
私は急に手を離して、貴女の乳輪を自由にした。微かに爪の痕が色づきの境界に残って、すぐに見えなくなった。
「うぁっ」
吐息とともに乳首がさらに尖ったように見えた。
「それはね。自分を納得させるための言葉なんだよ。愛とか、恋とかね」
素直な感情をそのまま行動に移すことが許される場合は少ない。
だから行き場のない感情を人は、営みの歴史という色が染み付いた言葉で誤摩化すのだ。あるいは、言葉にできない感情を一纏めにして、そういう言葉にしてしまうのだ。
「我慢なんて嫌。私は今したい事を今するの」
貴女が独り言のように返事をした。
雲が薄くなって空から光が零れ出した。私はもう一度、腰に腕を回して、貴女を抱きとめると、貴女のおしりのほうから太腿の間にもう一方の手を差し入れた。
「あん・・あああ」
指を動かして、まだ眠りの火照りを蓄えていた花びらを探った。中指の先で潤みを確かめてから、付け根まで一息に貴女に沈めた。
私の指を頬張るように貴女の粘膜が蠢いた。明るくなった空に向かって、貴女が唇を開く。
締め付ける粘膜を前へと押し戻すように、私は指をじわりと折り曲げた。溢れ出てきた貴女の欲望が透明な軌跡を私の手の甲に描く。
その滴りが、窓からの光を浴びて銀色に見えた。私は、酷く欲情をした。欲情の中に沈めた指に力を込めて、貴女を後ろへと引き倒した。
裸の体を入れ換えながら、赤く乾いた唇をキスで塞いだ。