空中楼閣*R25

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恋なんて

 灰色の地平線を見つめて「ロシアみたいな空・・」と貴女は言う。窓の外では、枝だけになった雑木林が春を待ちながら風に震えていた。

 私は静かに体を起こして、裸のままベッドの上に膝で立って空を見上げている貴女の腰に、後ろから腕を回した。

 鈍色の光が貴女の細いラインを柔らかく滲ませる。触れた手で撫で上げると、先回りするように貴女の肌が反応を見せる。

 指先が届く場所より少し先で産毛が立って、乳房の下から先端へと硬くなって行く。

 乳房の曲線に細かな鳥肌ができ、赤スグリ色が同心円を刻んで、中心の乳首が乳輪ごと勃起した。

 私の一番長い指の爪の先が、その乳輪の縁に触れた。

「ロシア、行ったことあるの?」

 私への返事の代わりに、貴女は吐息を漏らす。片方の乳首がほんのり赤いのは、私が噛み過ぎたせい。

「あ・・ちょっと痛い」
「乳首だけじゃなくて?」
「肌が、敏感になってるみたい」
「触れ過ぎたかな」

 貴女は視線を落とさないまま私に訊ねる。

「ねえ・・」
「何?」
「好きとか、愛してるとか、面倒よね」
「ん?どういう意味」

 私は指先を乳輪の縁に食い込ませた。

「あ・・だって、そんな言葉なんかどうでもいいもの」

 私は、自分の爪の先で窪んで歪んだ貴女の色を見つめていた。

「抱かれたい。触れたい。キスしたい。憎らしい。イライラする。そんな言葉のほうが正直で、面倒くさくないから」
「ああ、そういう事か」

 私は急に手を離して、貴女の乳輪を自由にした。微かに爪の痕が色づきの境界に残って、すぐに見えなくなった。

「うぁっ」

 吐息とともに乳首がさらに尖ったように見えた。

「それはね。自分を納得させるための言葉なんだよ。愛とか、恋とかね」

 素直な感情をそのまま行動に移すことが許される場合は少ない。

 だから行き場のない感情を人は、営みの歴史という色が染み付いた言葉で誤摩化すのだ。あるいは、言葉にできない感情を一纏めにして、そういう言葉にしてしまうのだ。

「我慢なんて嫌。私は今したい事を今するの」

 貴女が独り言のように返事をした。

 雲が薄くなって空から光が零れ出した。私はもう一度、腰に腕を回して、貴女を抱きとめると、貴女のおしりのほうから太腿の間にもう一方の手を差し入れた。

「あん・・あああ」

 指を動かして、まだ眠りの火照りを蓄えていた花びらを探った。中指の先で潤みを確かめてから、付け根まで一息に貴女に沈めた。

 私の指を頬張るように貴女の粘膜が蠢いた。明るくなった空に向かって、貴女が唇を開く。

 締め付ける粘膜を前へと押し戻すように、私は指をじわりと折り曲げた。溢れ出てきた貴女の欲望が透明な軌跡を私の手の甲に描く。

 その滴りが、窓からの光を浴びて銀色に見えた。私は、酷く欲情をした。欲情の中に沈めた指に力を込めて、貴女を後ろへと引き倒した。

 裸の体を入れ換えながら、赤く乾いた唇をキスで塞いだ。