空中楼閣*R25

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言葉すさび

 電車が揺れる度に顔を近づけて、耳元で囁いた。

「膝を少しだけ開いて」
「あ・・だめ。落ちちゃう」

 貴女のスカートの中では、黒の網タイツに支えられたティー・スプーンが三本、柄のほうから花びらに突き刺さっている。

 匙の部分が背中合わせになるように、貴女に沈めてから輪ゴムで止めたつもりだったが、反応する粘膜に押されて互いの柄を交叉させたらしい。

 何故、そう思ったのかというと、貴女が歩いたり階段を昇ったりした後で、粘膜のどこか一部を柄の先が強く押し上げたりするらしいのだ。

 だから、その度に貴女は、不意に立ち止まって眉根を寄せたり、ホームへの階段の途中で腰を捩ったままスカートの前を押さえたりした。

 ようやく電車に乗り込むと、二人はドアの脇に立って同じ手すりを握った。

「落ちたりしないでしょ。貴女が押し出さなければ」
「だ、だって・・感じると勝手に力が入って」

 そういう間にも、貴女は素直に私に従って足を少しずつ開いていった。

 揺れる電車の中で踏ん張るために、膝を開くのは不自然ではない。ただ、貴女の場合は足幅よりも膝が内側に折れて、間隔が狭くなってしまう。

 まるで、手すりにすがって、お漏らしを我慢している子供みたいな格好だった。

「ちゃんと立ってないと、恥ずかしいでしょ。スプーン入れて、気持ちよくなってるって判ってしまう」

 私はわざと「ズプーン入れて」で声のボリュームを上げた。貴女は「ダメダメ」というように顔を振って、俯いた。

 貴女の腰の後で、座席に座っている女性が聞き耳を立てている。そんな気配だった。

「奥のほうからスプーンに沿って落ちて来るよね、濃いのが」
「いや・・だめって」

 その時、大きく電車が揺れた。慌てて踏ん張った貴女は、次の瞬間に声を漏らす。

「あぁ・・あ」

 慌てて自分の唇を片手で被った。スカートに包まれた腰が、ビクンと一回、波を打ったのが判った。

「今、子宮が震えたんでしょ。また沢山、溢れて、タイツの網から滴り落ちたりして」
「そんな事、言ったら・・だめ。聞こえちゃう」
「スプーンの音が、かな」
「だから・・だ・・あぅ」

 電車が減速した。次の駅に近づいたらしい。

「足の指、丸めてないで、ちゃんと踏ん張らないと。転んだら突き刺さっちゃうぞ」
「もう・・ああん。意地悪い」

 ホームに滑り込んだ電車のドアが開く。空いていた車内が、急に窮屈になった。二人のすぐ近くにも数人の男女が陣取った。

「あ、嬉しそうな顔してる」

 ちらりと見上げるようにして、貴女が小声で囁いた。

「嬉しいのは、どっちのほうかな。ほら、膝の内側までタイツが濡れてる」
「ひゃ・・っ」

 慌てて俯く貴女の腕を捕まえて引き寄せた。ガタンと電車が揺れて動き出す。胸の中で貴女がくぐもった喘ぎ声を上げた。

 数秒間の腰の震えが収まってから、貴女が呟いた。

「嘘つき・・」
「でも、時間の問題でしょ」

 私は、そう言って貴女の腕に爪を立てた。私を見上げた眼差しを潤ませて、貴女の力が抜けていく。