空中楼閣*R25

*リンク先が不適切な場合があります。ご容赦を*

ホテル・コステス

 夜半には抜けるはずの狭い等圧線が、朝まで残っていたみたいだ。北西からの冷たい風に、時々、車が揺れる。

 中学に入る前だったか、一度だけラジオ短波に耳を傾けて、等圧線を白地図に描いたことがあった。

 知らなければ暗号の羅列のような数字が、淡々と読み上げられる。ただそれだけの番組なのだ。

 数字の羅列は、もちろん北緯と東経と気圧の値だ。小学生の私は多分、暗号を解くようにして、地図にポイントと数字を記入し、同じ気圧を探しては曲線を描いた。

 点をいくつも結ぶにつれて姿を現してくる等圧線と、その中心にある目には見えない低気圧にワクワクしていたのかもしれない。まるで自分だけが知り得る秘密の地図が目の前に現れたかのように。

 予報では、昼すぎには等圧線の間隔も広がるという。突風も車体の揺れで、それだと感じるだけで、車内には心地よい音楽が流れていた。

 彼女のブログは、丁度、一年の歳月を経て再開されていた。それに気がついたのは、再開されて、三ヶ月も経った時だった。

 ステファン・ポンポニャックの「ホテル・コステス」がリンクされていた。随分と昔に、ラジオから流れて来ていた曲が気に入って、演奏者を調べたことがあった。それが彼だった。

 コスト兄弟がパリの広場で営んでいるのが「ホテル・コステス」だという。何でも世界のセレブの御用達だとか。

 彼は、このホテルのレジデントDJも勤めていて、ホテルのパーティーも企画すると書かれていた。

 私が聞いてみたくなったのは、そういうわけだから、というものはない。むしろ、彼女が「ホテル・コステス」のベスト盤を評して、こう書いていたからだ。

「セックスのときには、最高。燃えます。感じます。逝きます。こんなのに弱いの」

 朝一番から、私は心地よくドライブして土曜の仕事に向かう。