玉結ぶ場所 〜冬の物語〜
冷えきった空気の中、ようやく空へと昇った太陽の光をゆっくりと集める朝露の煌めきだった。小さく結ばれた滴が、生み出される真珠みたいに大きく膨らんだ。
それが始まりだった。そして、誰もが美しいのだろうかと思った始まりでもあった。
では、誰でも良いのか、と問われれば、どうもそうではないらしい。美しさは精巧な構図で出来上がる。全てが上手く組み合わさって美しさは生まれ出る。
それは、貴女の声と喘ぎとのアンバランスだったり、歩き方と身悶え方の表裏だたり、極みで伸ばした足先のラインだったり、そして、人となりと二人で過ごした空間の温度だったりするのだ。
寝乱れたシーツは、二人の快感でしっとり重たくなっていた。その上に俯せにななって、無防備に片膝を折り曲げた貴女の花びらの狭間に、今、朝の眩しさが射し込んでいた。
私は気だるい身体と軽い頭痛を感じながら、ほんやりと芯のあって長くしなやかな飾り毛を眺めていた。
その時だった。雌しべの真下、シーツとの中間で浮いていた毛先に小さな光が宿った。
幻を見ているのかと思った。瞬きすら忘れてしまった。ゆっくりとその水滴は大きさを増して、今にも溢れそうになった。
何故だか、私は儚い光の球がシーツへと染みてしまうのが、嫌だった。貴女の蜜をシーツに奪われたくはなかった。だから、指を伸ばした。
綺麗な蜜玉は私の人差し指の上で、一瞬で消えてしまった。何も無かったみたいに、微かな滑りだけを残して。
貴女は眠りながら蜜を紡いだのだ。朝の光までもが美しかった。腰の双丘が滲んで見えた。あれは、貴女だったから美しいと思えたのだと、今は思う。
それ以来、私は美しい蜜だけを舐めて来た。そして、その美味を文字というものに閉じ込めて、標本箱に飾りはじめた。