空中楼閣*R25

*リンク先が不適切な場合があります。ご容赦を*

冬の物語(1)

 テレビの中で普段は軽そうにふざけている独身の芸人が、「あの頃、彼女とは真剣に結婚しようと思っていた。ただ、今は待ってくれと・・」と言ってた。

 男が真剣に考えて、時期を選んでいる間にも、女は待てないことがある。そのことに男は腹を立てる。真剣に相手を思えば思うほど、呆れるほどに怒りを覚え、やがて苛立ち、最後には「その時」の結論を女に投げつける。

 男にとっては「その時」の返事であって、未来の結論ではないはずなのに、女にとっては「その時」が全てであったりもする。

 何故なら、待てない女は永遠を望みながら今を欲しがる。ところが待って欲しいという男は、明日を夢見て、今を見過ごしてしまう。

 待てない女を愚かだと思ったことがある。その愚かさが可愛いのかもしれないとまで錯覚したこともある。

 その芸人の話を聞いてから、やっと気がついた。待てないのではない、のだと。

 女は、未来と引き換えに「今の自分」の存在理由を男に迫っていたんだ。「一番なのは私なのか、それ以外か」と。

 そんな状況での「今は待ってくれ」という返事は、女にとって「ノー」以外の何ものでもない。未来を訊ねてはいない。今を訊いている。

 もっとも、確かに、その場でイエスと言えないということは、男の中でそういう事なのかもしれない。それが、誤摩化しの効かない男の本心で、本人すら気付いていないのだろう。

 ああ、女って恐ろしい。