冬の物語(1)
テレビの中で普段は軽そうにふざけている独身の芸人が、「あの頃、彼女とは真剣に結婚しようと思っていた。ただ、今は待ってくれと・・」と言ってた。
男が真剣に考えて、時期を選んでいる間にも、女は待てないことがある。そのことに男は腹を立てる。真剣に相手を思えば思うほど、呆れるほどに怒りを覚え、やがて苛立ち、最後には「その時」の結論を女に投げつける。
男にとっては「その時」の返事であって、未来の結論ではないはずなのに、女にとっては「その時」が全てであったりもする。
何故なら、待てない女は永遠を望みながら今を欲しがる。ところが待って欲しいという男は、明日を夢見て、今を見過ごしてしまう。
待てない女を愚かだと思ったことがある。その愚かさが可愛いのかもしれないとまで錯覚したこともある。
その芸人の話を聞いてから、やっと気がついた。待てないのではない、のだと。
女は、未来と引き換えに「今の自分」の存在理由を男に迫っていたんだ。「一番なのは私なのか、それ以外か」と。
そんな状況での「今は待ってくれ」という返事は、女にとって「ノー」以外の何ものでもない。未来を訊ねてはいない。今を訊いている。
もっとも、確かに、その場でイエスと言えないということは、男の中でそういう事なのかもしれない。それが、誤摩化しの効かない男の本心で、本人すら気付いていないのだろう。
ああ、女って恐ろしい。