空中楼閣*R25

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冬の物語(2)

 元旦から三夜連続で夢を見た。

 実のところは、見たというよりも、見たらしい、が正確なのだ。内容は連続というよりは三本立てで、しかも、今となっては陽炎ぐらいにしか憶えていない。

 ただ、どんよりとした甘い快感だけは憶えている。

 誰でも、三時間以上の睡眠になれば夢を見る。ただ、憶えていないだけだ。私の場合は、滅多に憶えていない。それでも時々、夢を見ながら、これは夢だと自覚することがある。多分、目覚め際なのだろうが、かといって、そのまますぐに目覚めるわけでもない。

 ところが、三が日に見た夢は、逆だった。どれも生々しくて現実感があった。夢とは思えなかった。目が覚めても目覚めていない気分だった。さらに不思議なことに、目覚めて一時間もしないうちに、その夢達の輪郭すら消えてしまった。

 生々しさと快感だけが今でも残っている。

 別に夢精をしたわけではない。実際のところ、生まれてこのかた夢精をしたことがない。けれど、その生々しい快感は、妙な皮膚感覚があった。まるで射精をしたあとの浮遊感にも似ていた。

 どんよりと重く、心地よい感覚。

 いつものように前置きが長い。気が進まないけれど書き始めてしまったので、粉々になった破片の記憶を発掘作業のように慎重に拾い上げてみる。

 温泉場の渓谷を挟んで二棟の建物が、渓谷を渡る空中回廊で繋がっている。私は何かを探して回廊と建物を巡る。あちこちで馬鹿騒ぎをしている。宴会だろうか。

 突然、古めかしいドアの前で立ち止まり、ノブを回す。ああ、ここだ。

 洋館のように天井が高い。縦長の窓が腰の高さから頭上まで伸びる。窓の外は木々の緑。さっきまでの喧噪は届かない。

 ベッドが二つだけある。私は片方のベッドで裸の女と抱き合っていた。温かな心地よさと柔らかな肌の感触。と、背後から声がかかる。

「出てってよ。二人とも、もう出てって」

 腕の中に女を抱えたまま、首だけを声のほうへ回すと、シーツから身を起こした裸の女だった。哀しそうな目で怒っている。

 どうやら、ここは彼女の部屋らしい。何故、ベッドが二つあるのかは判らない。夢の中の私は、部屋の持ち主の女とも交わっていた。彼女とのそういう記憶があった。夢の中での記憶があった。

 なんだか、とても悲しい気持ちになった。その一方で、とても幸せな気分でもあった。

 この部屋で過ごし始めてからしばらくの間、私は美しい二人の女と互いの目の前で交わっていたらしい。それが、私には幸せな感覚だったのだろう。

 一方で、私を愛してくれている・・夢の中では、そう感じた・・彼女達にはとても酷い仕打ちをしている事を改めて知って、胸が痛んだ。

 とても身勝手な男だ。二人の女性は、互いに言葉も交わさない関係だった。目には見えていても互いの存在を、自分達の中で無理矢理に消し去っていた。

 それで、ついに耐えられなくなったらしい。

「ここ私の部屋よ。だから、出てって」

 今になって、ふとフランシス・コッポラ監督の「ドラキュラ」のシーンを思い出した。三名の裸の女性と交わっている主人公をベットの真上から映したシーン。女達は、快感の瞬間に本来の姿、獣の姿を現した。(ちなみに、女優の一人はモニカ・ベルッチ。襲われていたのはキアヌ・リーブス

 三日間の夢で、もう一つだけ憶えているシーンがある。多分、割礼の儀式を思ったのかもしれない。肌の黒い男がニタニタと笑いながら、私のペニスの先端近くの包皮の、ほんの一部をナイフで無造作に切り取った。

 切り取られた私も冗談のように笑いながら男に言った。

「痛いじゃないか」

 焼けるような痛みとともに、滲み出た赤い血が滴り落ちた。

 今日、今年の運勢を見た・・足元注意、急ぐな運を損なう。土台を固め、種を播いて備えよ。二途に迷うな。何事も慎重に・・

 ばらばらの夢の破片を「慎重に」拾ったら、これだった。今年は、自重する年らしい。

 あの朝、目が覚めて、硬くなっている先端を確かめた。無事を確かめてから、どんよりと甘い快感の余韻に浸ったのだった。