空中楼閣*R25

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冬の口紅

「あなたの事、考えるだけで濡れてくるの」

 吐息まじりの呟きが電話の向こうからする。

 貴女の柔らかく膨らんだ下唇を思い出す。冬の口紅は、妙に色っぽい。多分、吐く息の白さと紅色の対比かもしれない。

 冬になって涸れてしまうのは、川の水ばかりではない。貴女は以前、心が渇いて身体も潤まない、と私にそう言った。あれも冬だったろうか。

 私は渇くと、言葉が底を突く。だから、貴女の囁きは涸れた私の言葉を潤してくれる。

「何もしてないのに、染みになりそう」

 下着を透かすほど潤む貴女は、私の心まで濡らしてくれる。水分を含んだ心は、少しずつ言葉を紡ぎ始める。

 指の爪の先で、濡れた布越しに花びらのカタチを浮き出させたくなった。

「触れてもいいの?」

 貴女はいつも私にそう訊ねる。私がそう仕向けたわけでない。

 誰にそんな風に躾けられたのだろう。そういえば、初めて交わった時にも、貴女は昇り詰めても良いかと、何度もうわ言のように呟いた。

 嫉妬は、潤んだ心を掻き回す。濡れ始めた部分が掻き乱されて、蜜音を響かせ始めるのと同じようだ。

「透けて見えます。いやらしい色です」

 目の前に貴女のカタチが浮かんだ。

 少しだけ左右がアンバランスな花びらと、粘膜をストールのように巻き付けた雌しべの大きさと、感じると迫り出して来る尿道口。

 一番、敏感な部分を爪で引っ掻かせたい。

「あ、ダメです。疼いて、漏れちゃうから」

 目を閉じたまま貴女に自分を弄らせると、貴女の指先は雌しべよりも下を彷徨う。そこが一番、感じるのだと。

 下着のまま漏らせばいいんだ、と電話の向こうの貴女に意地悪を言いたくなった。

・・淫らな蜜を私の先端ですくって、貴女の赤い唇に塗り付けてあげるから、そのまま爪の先で漏れそうな部分を弄っていなさい。私が赤い唇を白く汚すまで。

「指が離せなくなりそう・・です」