冬の口紅
「あなたの事、考えるだけで濡れてくるの」
吐息まじりの呟きが電話の向こうからする。
貴女の柔らかく膨らんだ下唇を思い出す。冬の口紅は、妙に色っぽい。多分、吐く息の白さと紅色の対比かもしれない。
冬になって涸れてしまうのは、川の水ばかりではない。貴女は以前、心が渇いて身体も潤まない、と私にそう言った。あれも冬だったろうか。
私は渇くと、言葉が底を突く。だから、貴女の囁きは涸れた私の言葉を潤してくれる。
「何もしてないのに、染みになりそう」
下着を透かすほど潤む貴女は、私の心まで濡らしてくれる。水分を含んだ心は、少しずつ言葉を紡ぎ始める。
指の爪の先で、濡れた布越しに花びらのカタチを浮き出させたくなった。
「触れてもいいの?」
貴女はいつも私にそう訊ねる。私がそう仕向けたわけでない。
誰にそんな風に躾けられたのだろう。そういえば、初めて交わった時にも、貴女は昇り詰めても良いかと、何度もうわ言のように呟いた。
嫉妬は、潤んだ心を掻き回す。濡れ始めた部分が掻き乱されて、蜜音を響かせ始めるのと同じようだ。
「透けて見えます。いやらしい色です」
目の前に貴女のカタチが浮かんだ。
少しだけ左右がアンバランスな花びらと、粘膜をストールのように巻き付けた雌しべの大きさと、感じると迫り出して来る尿道口。
一番、敏感な部分を爪で引っ掻かせたい。
「あ、ダメです。疼いて、漏れちゃうから」
目を閉じたまま貴女に自分を弄らせると、貴女の指先は雌しべよりも下を彷徨う。そこが一番、感じるのだと。
下着のまま漏らせばいいんだ、と電話の向こうの貴女に意地悪を言いたくなった。
・・淫らな蜜を私の先端ですくって、貴女の赤い唇に塗り付けてあげるから、そのまま爪の先で漏れそうな部分を弄っていなさい。私が赤い唇を白く汚すまで。
「指が離せなくなりそう・・です」