天空の桃林
今度は空中なのね、と伝えると、硝子の箱はどこにでも作れるよ、と彼から返事があった。
確かにそうかもしれない。彼は、透明な閉鎖空間が好きなのだから、それが地上にあろうと、空高くにあろうと関係ないだろう。
彼の部屋で蒼い光に揺れる水槽も、植物園にあるような温かい湿度に満ちた温室も、明るい昼下がりの眺めのいいシティーホテルの部屋も、同じように彼の好きな空間なのだ。
宙に浮かぶガラス箱ね、という私の言葉に、彼は嬉しそうにこう返した。
「また、箱の中に入ってくれるかな」
「いいわよ。あなたの望み通り」
「じゃあ、その中で指を使って魅せて欲しい」
「・・え、うん。はい」
宙づりの透明な箱の中で、私は腰を下ろして膝を開く。彼の視線に晒されながら、自分の花びらを指で揺らして、潤ませる。
きっと彼は真下からも見上げるだろう。私が紡ぎ出す蜜で、白く霞んでいく透明を。
「最後までしたら、触れてくれる?」
「私が良いというまで、蕩けてからね」
「もう・・いつも意地悪」
「好きでしょ。そういうの」
そう、そういうのが好きでたまらない。だから、彼の世界に憧れる。望むなら、どんな硝子箱でもいい。
「透明水槽」でも「ガラス温室」でも「空中楼閣」でも、何処にでも私は入りたい。