空中楼閣*R25

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ドール・ハウス(1)

 二時間ほど前にこの家の扉を開け、玄関脇の階段から二階に上がった。この部屋には南向きの出窓があった。その窓からは河川敷の野球練習場を見下ろすことができる。

 窓の左側にあるソファーで男が手招きをした。男の前に立つとショーツを脱ぐようにと言われ、次にスカートを持ち上げなさいと命じられた。

 男の手へと渡した桃色の薄布は、すでに糸を引くほど濡れていた。男は親指で花びらと蜜の痕跡を確かめながら、圧迫から自由になって本来の形に戻っていく飾り毛を眺めていた。夏の終わりの陽射しが黒々とした部分を艶めかせていた。
 
 捲り上げている手が汗ばんで、膝が震えそうだった。「脚を開きなさい」と言われた瞬間に紡がれた蜜が内腿を滴り落ちた。濡れた部分が陽射しを反射してしまうのではと、恥ずかしさに目が潤んだ。

「素敵な膨らみだね」

 男の声にますます膝の力が抜けていった。腰が自然に蠢いてしまいそうだ。

「蜜が流れ出て毛先に雫を結んでいますよ。これは美しい」

 男が脚の間へと手を伸ばした。声を出さないように唇を噛むとルージュの味がした。スカートの下で男の指が飾り毛に触れた。

「透明の蜜ですね。糸まで曳いて」

 指の動きが毛先に伝わり、敏感な肌を粟立てた。いやらしいモノが流れ出ていると思いで、余計に腰が甘くなっていった。

 声を上げてはいけない・・というのがこの部屋でのルールの一つだった。ルールは他にもあった「抗ってはいけない」、「自分から行動してはいけない」、まるで玩具か人形かのように、なされるままで居なくてはならなかった。

 いつの頃から此処に出入りするようになったか、曖昧な記憶だった。ただ、そんなことはどうでも良かった。私は、自分が訪れたくなったときには、何時でもここに来て何日も過ごしていた。そして、この部屋だけでは人形で居られた。

 多分、この部屋の最も大事なルールが、私を解き放ってくれていた。「されては困る事」と「して欲しい事」を最初に告げてこの部屋に入るという事だった。

 けれど、いや多分、だからこそ、ドアを閉めてしまった後はいつも自分が何を望んでいたのかも曖昧になってしまうのだ。

 男はスカートを脱ぐようにと言った。人形は言われたままに、男のほうを見つめてスカートを脱がなくてはならなかった。呼吸が苦しくなる。スカートを足から抜くとき、太腿の内側が冷たいほど濡れていた。

「そのテーブルに横になりなさい」

 示されたテーブルは大理石の1メートルほどの長さで、仰向けになると頭から腰までがテーブルの上だった。

 折り曲げて床に下ろした足は、しどけなく緩んで開いてしまう。腰の下に四つ折りのバスタオルが敷かれていたので、突き出すように腰が浮いて余計に膝が開いた。背中からは大理石の冷たさが伝わってきた。

「もっと綺麗にしてあげましょう」

 そう言って男は用意されていたボウルからお湯を掬って飾り毛に注ぎかけた。生暖かい液体が亀裂へと流れ落ちて、蜜を絡めてタオルを濡らした。起伏に触れた男の指が繊細な部分の皮膚を緊張させると冷たい刃先を宛がわれた。

 鋏で短くもせずに、生え際の根元から刃先で削ぎ落とされていった。その感触は、大人の女のごわついた性欲を肌から剥ぐようなものだった。

 開かれた脚の間に男の真剣な眼差しが注がれた。手際よく丹念に起伏が裸にされていった。縦に走る亀裂の端、包皮の突起に向かって肌が窪むあたりに飾り毛が密生していた。

 男が二本の指で窪みを左右に拡げると、粘膜の包皮が引き攣って心なしか捲くれ上がった。桜色の雌蕊が顔を覗かせ、空気に晒された感覚に腰が痺れた。

「あっ・・」

 自分でも可愛いと思うような声が咽の奥から漏れてしまった。男は気に留めることもなく、刃先を進める。細かい動きで突起の頭上を剥き出しにしていった。

「急に動くと削いでしまいますよ。大事な雌しべ」

 動くなといわれても、触れそうで触れない振動と指の動きが伝わっていた。だらしなく開いた腰の後ろへと滴り落ちるものはお湯だけではなかった。

「・・でも」

 男の動きが止まって、唇に人差し指を縦に宛がわれた。

「声は出さないのですよ。まだ、半分も終わってない」

 片刃カミソリの角の部分を使ったり逆剃りをしたりしては、男はお湯を滴らせ、そして指の腹で確かめた。官能には無関心そうな動きが逆に官能を炙り出す。溢れ出る蜜が男の目には見えているはずだ。

「もっと脚を開きなさい」

 潤んでいる部分を男に晒すことになった。床に足先だけで触れて膝を拡げた。

「膝を胸のほうへ折り曲げて」

 ああ・・と心の中で吐息を漏らした。それだけで紡がれて堰き止められていた熱いものが、トロリと流れ出そうだ。

 男の手が膝を支えるようにして裏側から軽く持ち上げた。導かれるように床からつま先が離れ、膝が折り曲がって胸の両脇へと拡げられていった。

 キャミソールの感触が膝の内側をくすぐった。顔を横にむけるとレースのカーテンをあしらった出窓から眩しい空が見えた。

 こんな晴天の日に、自分は腰だけを裸にして蜜にまみれた粘膜を晒していた。