妄想の枷
「口を開けなさい、と彼が私に言った。一瞬、躊躇うと風を切る唸りとともに、乳房に鞭が弾けた。声にならない悲鳴と上げながら、私は天井に向かって口を開けた」
椅子に座って両腕を背中に回した貴女が、目を閉じて背中を反らした。物語を紡ぐ喉元が白く艶めいていた。乾くのか、貴女の濡れた舌先がちらりと唇を舐めた。
「続けて」
催促の声に貴女はゆっくりと目を開け、視線を私に向けた。
「口を開くと何かが押し込まれ、革ベルトで顔に固定された。口枷だった。限界まで開いた口が閉じられないままになった。立ちなさい、と彼の声がした。私は不自由な体でなんとかバランスを取って立ち上がった。すぐに椅子が取り払われる音がした」
腕を背中に回して突き出された貴女の胸が大きく息を継いだ。
「風を切る音とともに、背中に熱した鉄の棒を宛てがわれたみたいだった。閉じれない喉からの悲鳴は、無様なものだった。容赦なく鞭が見舞われた。息をする間もなく、悲鳴すら漏らせなくなった。ただ、開いた口から唾液が滴りながれて、括り出された乳房を濡らした」
貴女が喉を鳴らして、唾液を飲み込んだ。
「その妄想は、いつから抱いているのかな?」
「自慰を憶えた頃から・・」
「続けて」
「はい。・・彼の鞭が膝の裏側を叩き、私は転がるように膝を折った。その瞬間、両足首を棒の両端に固定されてしまった。四つん這いになった私に鞭が振り下ろされた。その痛みから逃れようと、闇の中を這い回った。痛みに転がると乳房や腰の中心に鞭を見舞われた。背中や尻とは比べものにならない痛みだった」
物語をすすめる貴女の視線がとろんと潤み始めていた。時々、腰を左右に揺らしては、膝を閉じようとする。
「膝、閉じない」
私の声に貴女は俯き、膝を緩める。
「心の中で叫びました。許して、許して下さい。見えない方向に這い回ると、人の足にぶつかった。鞭は背中から打ち下ろされる。この部屋には、他の人が居る。それも数名居るらしい。それに気付くと私は自分を失った。混乱した。助けて、ここから誰か逃がして」
私はゆっくりと貴女の背中へと回り込んだ。
「突然、誰かに髪を乱暴につかまれた。玩具みたいだ、と笑い声が聞こえた」
貴女の髪に指をかけて、耳元まで撫で下ろした。
「口枷の中に、男性が押し入って来た。何の躊躇もなく喉の奥を突いた。嗚咽が起きても、辞めてはくれなかった。胃液が逆流して、チョコレートの味を流し去った」
私は指の先で貴女の耳のカタチをなぞった。貴女は吐息を漏らして、小首をかしげる。
「吐きながら、咳き込んだ。咳き込みながら頭を激しく動かされ続けた。呼吸困難と目眩の中、意識が遠ざかった。乳房をつかまれ、乳首を潰された。背中と尻に鞭を受けた。失いかけた意識を引き戻された。直後、喉の奥に熱い体液を注がれた」
不意に強く貴女の髪を後ろへ引っ張った。
「あ・・ああ。もっと・・して」
「話を続けて」