点を連ねて
「この白いチョークの線は・・」
そう言いながら数学の教師が左から右へと長い横線を黒板に描く。
「チョークの粉、つまり、点の連続だ。例えばここをゼロとする」
その長い線の一カ所に人差し指の先を押し付ける。そこだけ微かに線が途切れた。
「で・・このゼロのすぐ右隣の数は何だ」
聞き入る生徒を白くなった指の先で指名した。
「えっと、限りなくゼロに近い正の数」
同意する教師の声を聞きながら、思った。
今この時に限りなく近い未来と限りなく近かった過去は、なんとなくイメージできるのに、「今」この時が少しもイメージできないでいた。
そうか、それは今がゼロだからなんだ。「ゼロ」は限りなく近い正の数と負の数の挟まれて、ようやく存在してるんだ。
地面に立っている自分の足の影を思い描けないみたいに、今が判らないでいた。足を浮かした瞬間に、それが地面を踏んでいた影ではないのだから。
最初から「ゼロ」だった。無いものは、最初から無いままなんだ。
ただただ限り「なく」近いものたちに挟まれて、ようやく存在しているような限り「ある」命を生きている。
存在とは、それだけだったんだ。最初から此処には何も無いんだ・・ゼロだから。
では、気は何処にあるんだろう。