下弦の月
つま先が張り詰めて踵が浮くと、立てた膝がゆっくりと伸びていく。内側に秘められて見えなかった戦慄きが、次第に大きくなって姿を現した。
夕陽に映し出された貴女の乳房に黄金色の産毛を見てから、随分と時間が経っていた。
密閉された部屋の中は、二人の吐息の湿度と肌の温度で満たされている。大きな窓ガラスの下半分が心なし曇って見える。その上の半分で、冴え冴えとした下限の月が直立しようとしていた。
淫らな匂いをたっぷりと吸い込んだベッドに仰臥する私の、伸ばした右手に跨がるように貴女が腰を落としていた。
私の掌と貴女の粘膜がトロトロと蕩けて生み出す熱を、互いの狭間で転がすようにして時間を過ごした。
小さな音が大きくなって貴女が背中を反らす頃には、私の指の幾本かが花びらに呑み込まれていて、ただ中指だけは別の部分から貴女の中に埋もれていた。
呼吸のようだった吐息が乱れ始めると、貴女の腰が淫らに蠢めいた。
「いやらしいよね。その動きかた」
「だって・・気持ちイイから」
「自然に動くんだ」
「ああ、動いちゃう」
赤い唇が空を仰いで、白い咽を月が照らして、浮かせた踵が左右に滑ると、立てていた膝が真っすぐに伸びていった。
柔らかな身体が、ベッドの上でバレリーナのように一直線に腰を割った。
「入ってる指を軸にして回れそうだね」
「ああ、馬鹿いわないで」
私は意地悪く指を折り曲げる。指の先が子宮との窪みを捉えたまま、粘膜の壁を折り畳む。
「あああぅ・・う」
ガラス窓に貴女の声が反射して、私の手の中に熱の塊が産み落とされた。
月明かりに目を凝らすと、剥き出しになって膨らんだ雌しべと私の掌の間から紅い経血がとろりと溢れ出た。
「貴女の満月には、まだ早いのに」
「あっ・・いやぁ・・刺激するからよ」
「止めようか」
「だめ、今だけだから」
眉根をひそめて私を見下ろした貴女の、紅い唇が声もなく囁いた。
・・もっと・・ほしい・・
私は指を揺らし始める。紅い血が滴り落ちる。月に照らされたシーツに染みが滲んだ。
黄金色の月と紅い血が、二人にはお似合いだと思った。何故なら、二人はいつも次の約束をしない。それは偶然のように重なり合うだけだから。