空中楼閣*R25

*リンク先が不適切な場合があります。ご容赦を*

溢れ出て・・

 落下する水の音は、次第に耳から消えて、無意識の心を揺らす心地よい音になる。

 アクリルで作られた透明な箱には、オーバーフロー式の海水が蒼く静かに煌めいている。彼が創った世界に、私は棲んでいる。

 箱は上下になっていて、隠れている下の箱では、上の箱から溢れた海水が空気をタップリと含みながら滝となって流れ落ちる。落ちる先にはスポンジと筒状の小さなブロックを幾重にも重ねてあって、水の音はほとんどしない。

 下の箱で微生物が育まれ、この水に煌めきを与える。微生物が育たなければ、水槽の海水は死んでしまい、煌めいたりはしない。

 この部屋で彼を待つ間、私は自分の肌に蒼色を写す。

 床に横たわって、肌に波紋を遊ばせる。白い肌は蒼い光で淡く浮かんで、這い回る波紋を眺めていると、水の底に横たわっている錯覚に陥ってしまう。

 彼の創った光と波紋に、私の乳房が感じ始める。産毛が粟立って、胸の先が硬くなる。乳房の膨らみが熱を帯びると伸ばした膝を軽く折り曲げて、腰を緩めたくなる。

 私は、彼をただ待っている。

 不安がないかと言われば、全くないわけではない。ただ、彼は水槽をひとつしか創れない人で、その水槽に棲んでいるのは私だ、ということだ。

 信じているの、と尋ねられれば、それは少し違う。だって、私が此処に居るという事実があるのだから、信じるという思いなど要らない。だから、疑いもない。

 空気と光に晒されて闇の中で敏感になっていく肌には、指を触れずに、私は腰を大きく拡げた。淡い飾り毛が蒼く透けて、その向こうにある花びらを秘めた亀裂へと右手を伸ばす。

 指先が潤みに包まれる。そのまま中指を溺れさせる。背中が浮いて、腰が焦れる。眼差しが閉ざされて、開いた唇から吐息が漏れる。

 この心地よさと同じくらいな確かさで、私だけが彼のこの世界に棲んでいる。疑う必要も、信じる必要も無いくらいの存在として。

 彼は、私に言う。

「好きにすれば良いよ。閉じ込めたわけじゃない。貴女の心地良いままにすればいいんだ」

 もし、不安があるとすれば、私が此処で待っている間に、彼がこの世から消えてしまうこと。ただ、それだけ。

 ああ、熱い。埋めた指が溶けそうになる。アヌスが収縮して、花びらが指を締め付ける。締め付けると、それが甘い痺れをうねりに変える。

 彼は、私を自由にさせている。気が向けば、彼の世界を抜け出して、他の男性と過ごしたりもする。それが心地よければ、の話だけれど。

 私の中が彼に満ちていて、満ちていなければ落ち着かない時期もあった。此処に居るのは私だけだと信じようとして、それが苦しかった。

「苦しいなら、やめればいいよ。信じる必要なんて無いでしょ。信じなければ、疑う事もない」

 そんなの無理だと、私は言った。

「目を閉じないで見てご覧。ほら、まぎれも無く二人はここに居る。目を閉じるから、見失う。だから心が迷うんだ。夜の闇を怖いという子供みたいに。触れてないときは目を閉じないで。感じてるときは、閉じても良いから」

 まるで都合のいい女みたいだね、と言われたこともある。でも、違う。都合のいいのは、私も同じだから。

 彼がいつも導くように、私は深くで指をそっと折り曲げる。

「・・あ・・ああ」

 声が出ちゃう。触れているときは、目を閉じてもいいんだ。