空中楼閣*R25

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狂気となるのは


 境界が曖昧になっているのに、肌の感覚が全て快感に置き換わってしまう。それが自分でも不思議な程に敏感になっていた。

 あの時のことを、貴女がそう教えてくれた。

「あ・・蕩けてる・・私の腰」

 ゆっくりと揺れながら、視線を宙に漂わせて独り言のように呟いた。

 最初は窮屈だった貴女の内側は、次第に解けるように波打って、うねりだした。吸い込むように奥へと誘ったと思えば、張り詰めて痙攣をした。迫り出すように押し戻したかと思えば、声を上げて蜜を滴らせた。

 その繰り返しの先で、粘膜の感覚が熱とともに蕩けて、貴女の境界を感じ取れなくなった。ただ、甘い痺れだけが腰から背中へと広がっていた。

「うん、本当だ・・溶けてる」

 膨れ上がる欲情を堪えながら、貴女に言葉を返した。

 潤んだ花びらを解いた私が子宮を溶かし、花びらの奥から蕩けだしたものが、今度は呑み込んだ私を融かしていく。そうして、二人の部分は境界を見失った。

 重ねた腰がそうであるように、交わした唇も境界が消えていた。

「ああ・・もっとして・・キスして」

 唾液で滑らせた二人の唇は、触れ合った最初からずっと吸い合ったり、濡らしあったり、舌を絡め合って、離れている時間のほうが短いくらいだった。

 唾液まみれの粘膜は触れているのか、離れているのか判らないほどに溶けていた。だからといって、触れていないと我慢できないほどの焦れた感覚に襲われた。

 片時でも重ねていないと落ち着かない感じだ。それでも粘膜を溶かし合っていられる時間は限られていた。

 無理矢理、粘膜を引き裂くように、時計を眺めて肌を離した。

 シャワーを浴びる間も、服を着る間も、貴女の化粧を待つ間も、名残惜しさにキスをして、腰に触れていた。

 駅への帰り道。並んで歩く肩が触れるだけで、貴女は吐息を漏らした。絡めた指に少しだけ力を込めるだけで、小さく声を零した。

「だ・・め。また、逝っちゃいそうだもの」

 最初は、聞き間違いだと思った。でも、私が指を動かし、腰を引き寄せるたびに、貴女は身悶え、足元が危なくなった。

「ほんとに、変なの。腰が浮いちゃうの」
「さっき、逝っちゃうって言ったの?」

 貴女は顔を伏せるように小さく頷いた。

「まさか、手を繋いでるだけだよ」
「あ・・だめ。ほんとに、逝きそうなの」
「凄いね」
「多分・・心がそうなってるの。本当なら・・」
「何?」

 貴女が強く指を握り返した。

「許されるなら、狂ってしまいたいの。ここで犯されたいぐらい」

 出来るなら、私も狂ってしまいたいと、指を握り返した。

 貴女はあの時のことを、境界を失って、肌の感覚が官能だけを敏感に感じていたと、私に教えてくれた。けれど、肌だけではなくて、心がそうなっていたからだろう。

 それは、貴女も私も、同じように。