壊れる瞬間
「自分でも信じられないの。こんな気分になるなんて」
床に横座りをして両手を床に突いた貴女が、潤んだ眼差しで私を見上げている。
涙を浮かべているのは、たった今、私の硬くなったものを喉の奥まで呑み込んで唇を濡らしていた貴女の頭を、逃げられないように押さえつけて、腰を突き立てたからだ。
胃液が喉を駆け上り、私の差しだした両手に貴女が吐物を垂らした。
「私の全部、見て欲しい。あなたの全部も知りたい」
唇から滴らせて、貴女が顔を突き出した。私は貴女に濡れた手のひらをそのままに、顔だけ近づけて、その唇を頬張った。舌を重ね、唾液を交わらせる。
「昔のあなたも知りたいの。あなたを知らない自分に腹が立つの」
私は黙ったままでキスを繰り返し、それから貴女の吐物を私の部分に塗り付けた。
「もう一度、してくれるかな。全部、吐き出すまで」
貴女の手が私の硬さを握る。自分のもので汚れたものの先端に躊躇いもなく唇をあてがった。そのまま静かに深く奥まで呑み込む。
背中が震え始める。貴女の喉を奥を感じる。それでも、貴女は舌を動かす。付け根を捕えた手を離して、両手を私の腰に回す。
唾液を滴らせた口から私を抜くと、苦しそうに嘔吐してから涙を一筋零しながら、こう言った。
「ねえ、さっきみたいに両手で押し付けて。私が逃げないように。苦しくてもいいから、お願い」
「してあげる・・吐きたければ、吐いていいからね」
そう言って私は貴女の髪をつかんで、ゆっくりと腰に近づけた。
私の熱が貴女の熱に包まれて、小刻みな震えと、時々、起きる嗚咽の波と、貴女の涙と鼻水と唾液と吐物にまみれていった。
貴女の意識が遠退く手前で私が両手を話すと、弛緩した貴女が床に崩れ落ちた。嗚咽の余韻に震えながら、涙を溢れさせて啜り泣きを始めた。
私が抱き寄せると同時に大きな声で子供のように泣き出した。私まで鼻の奥が痛くなり、みぞおちから喉へと酸っぱい感覚が溢れ出て来る。
涙が溢れた。一度、声を上げて泣くと止めどなくなった。
「どうしたの。全部、吐き出したかったの?」
頬を濡らしながら私が尋ねると、貴女は途切れ途切れに、狂おしいキスの間にこう言った。
「知らなくても良いんだと判っていても、知りたくなって、疑い出すときりがないの。連鎖反応みたいに、次々と良くないことを思い浮かべるの。そんな事しても、どうしようもないし、意味が無いって判ってるのに。そんな自分が辛くて。だから・・」
「だから?」
「壊して欲しいの、そんな考えが浮かばないくらいに・・何も考えなくていいように。目の前のあなたしか信じないように」
私は黙って抱き締めた。そうするしか思いつかなかった。そして二人で唇を貪り合った。いつまでも。