空中楼閣*R25

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白秋の紅い実に(2)


 自転車を漕ぐ女は、なんて色っぽいのだろう。

 特に、片手が塞がったままで、膝丈の窮屈そうなスカートの裾を気にしながら、交互に持ち上がる膝の内側を摺り合わせるように漕ぐ姿には、つい視線を留めてしまう。

 その女は、片手の黒い日傘を持ち、白いシャツブラウスに無地の黒いスカートで膝を摺り合わせていた。スカートの裾よりも日焼けを気にしていたのだろうか。

 歩道を歩く私の真正面から近づいて来た自転車は、彼女の背丈には少し小さすぎた。サドルも低く、自転車カゴまでの距離も短かったのだと思う。

 彼女がペダルと漕ぐたびに、膝が高くあがって裾が少しずつ捲れ上がっていく。おまけに前カゴを避けるために、上げた膝を僅かながら外側へと緩めなくてはいけなかった。その分、下げた膝を内側へと倒して大腿が開くのを避けていた。

 スカートが捲れないように、腿が開かないようにとする膝の軌道は、微妙な曲線を描き、その動きが彼女の腰を左右に揺らして、一層、艶かしかった。

 私は女との距離が近づくのを忘れて、交互に折り曲がる彼女の膝頭を眺めていた。

 二人の間に車止めのゲートが立っているのに気づいたのは、かなり距離が近づいてからだった。ゲートをどちらに避けようかと迷う間に、彼女も私とすれ違うルートを迷ってしまった。

 折り悪く、強い風が吹いた・・気がした。

 黒い日傘が大きく揺れて、すぐに歩道に転がったのを目に留めたのと、女の自転車のブレーキの音と、私の膝が車止めに当たったのが同時だった。

 次の瞬間、私は女を抱き止めるようにして、仰向けに歩道に転んでいた。

「ごめんなさい。大丈夫ですか」

 それが貴女だった。甘い匂いを残して、私の腕の中から起き上がりながら、取り乱したように詫びてくれた。

「いえいえ、私こそ、ごめんなさい。ケガないですか」

 私のほうがばつが悪い。なにしろ、貴女の腰とスカートの奥に見とれていた。

「あ・・」

 二人の声は同時だった。私は転がった黒い日傘が気になっていた。

「傘が・・」と言って、目で追った。貴女が声を上げたのは、日傘のことではなかった。

「膝、血が出てます」

 ズボンの左膝のところが三センチほど裂けていた。だが、膝の傷は擦り傷程度だった。

 私は歩道に転がっている日傘を見つけて、急いで立ち上がった。が、その拍子にがくんと反対の右膝が折れた。痛みが走った。多分、車止めのゲートにぶつけたのだろう。

 それでも、少しのやせ我慢をして小走りが出来た。なんとか、傘を拾い上げる。

「無理しないで下さい。ほんとに大丈夫ですか?」
「ええ、ぶつけただけでだし、歩けます。傷も浅い。ズボンは・・」
「裂けちゃいましたね。ここままじゃ。あ、そうだ。家、すぐそこですから」

 そういう理由で、私は今、古びたソファーに座って、腰にバスタオルを巻き付けている。

 いや、それだけでは目の前にいる貴女が、明るい陽射しを浴びた花びらとアヌスを私に見せながら、年老いた家の主の男性を口に含んでいたりはしない。

「濡れて来てますでしょ。女の部分が」

 老人は私にそう言った。

「はっ・・。ああ、まあ」

 なんと返事をして良いものか。

 事実、貴女の吐息の大きさとともに、花びらから透明な蜜が溢れ出し、敏感そうな小さな果肉に玉を結んでいた。それが、今にも滴り落ちそうだった。

 細い飾り毛に、きっと綺麗に糸を曳く。そんな気がした。

「これは、そういう女なんですよ。他の男に見られて濡れる」
「は、はあ。いえ、でも。そうですか」

 自分でも何を言っているのか、判らない。ただ、貴女がそういう女であって欲しくないような。そうあって欲しいような。妙な気分だった。

「ほれ、指で拡げて、見せて上げなさい」

 白髪の男が、そういった。貴女は啜り上げるような音を唇から漏らしながら、主の部分を口から逃がすと、小さく返事をした。

「はい・・見て下さい。もっと、よく見て下さい」

 潤んだ花びらが囁いたようなだった。