空中楼閣*R25

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貴女からの手紙

 1月末の貴女からの手紙。

 こんばんは。「受け月」という言葉を初めて知りました。「上弦の月」は弦が月の主役で「受け月」は皿のような部分が主役なのですね。

 寒椿は香りがしましたでしょうか。以前に蜜を吸ったことがありました。雌しべの膨らみの部分に溜まった蜜です。仄かな香りは、蜜からかもしれませんね。

 勤め先のビルの前に大きな樹があります。葉が落ちて裸なので寒そうな感じですが、枝の先には硬く小さな蕾がいくつも。土の中は、もう暖かくなっているようです。

 春の香りが近いかも、ですね。


 11月始めの貴女からの手紙。

 霧雨ですね。私も、明日は久しぶりにお友達とランチです。お天気はどうでしょう。雨、止んでくれないかしら。

 イチョウの木、「銀杏」と書くとつい茶碗蒸しに入っている方を思い出してしまいます。食いしん坊です。塩焼きも美味しいですよね。実の中のほうのモチっとした食感が好きです。

 公孫樹と書くと、幹も葉も大きな樹に、ふっくらしたギンナンが鈴なりな感じを想像します。あ、やっぱり食べ物を想像してますね。

 街路樹ではなくて、公園に一本だけあるような樹。そんなイメージでしょうか。恩賜公園にも、そんな樹がありそうですね。でも来月だと寒いかしら。池の周り歩いていたら凍えちゃうかな、なんて思ってます。


 まだ春の匂いさえも仄かな季節に私は大きな樹になった。

 受け月に照らされて、一人密かに蜜を吸う貴女を思った。寒椿の紅い花びらを唇で探って、舌先で蜜を舐めていた。口元を黄色の花粉で汚しながら、透明な糸を紡いでは、美味しそうに味わっていた。

 色づいた木の葉が寒さに備える頃、私は大きな樹になった。

 池を渡る冷たい空気に肌を粟立たせる貴女を思う。コートの中、洋服の奥で硬くなる乳房と勃起する茜色を思う。

 小さな割烹で暖をとる。温かな湯気の中、滑らかな卵色に箸を沈めて、探り出した黄金色の銀杏を唇に運ぶ。歯をたてて、もっちりと実を割ると舌で味わって、白い咽が動いた。

 蜜を舐め、銀杏を味わい、貴女は私の視線の中で花びらを火照らせる。

 夏の終わりの雨の中、蒸し暑さに肌を濡らしながら、大きな樹の根元に寄り添って、貴女はどんな淫らを見せてくれますか。