空中楼閣*R25

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私から

 交わった後の気だるい微睡の中、腕に感じる貴女の頭の重みは気にもならなかったのだけれど、頬に触れる髪先が妙に煩わしいと思ってしまう。

 一度、そう感じてしまうと、貴女の髪先が触れる度に、気づかれないように顔を離してみたりする。

 それでも、何も知らないし、知りようもない貴女は、顔を私に埋めようとする。ついには私の中に不愉快な感情が、それと意識されるまでのカタチとなって姿を現してしまう。

 人の感覚のいい加減さは、感覚が感情に支配されるところだろう。

 片時でも離れるのが惜しくて、触れる髪先ですら心地よく感じられた。まるで、心を惑わす仄かな香りや、柔らかな吐息のようだったのに、一度、感覚が手の平を返してしまうと、ただただ煩わしいだけの髪の先になってしまう。

 それは多分、肩に手を置かれる女性の感覚もそうだろう。甘くなるか、迷惑に感じるか。

 我ながら、この変化には驚いてしまう。自分の感覚に裏切られる気分だし、信頼すら危うくなる。昨日まで甘かったものが、酷く苦い味になってしまうのだから。

 いや、感覚が裏切ったのではなく、むしろ心の姿を正直に現して、知らせてくれているのだ。

 ほんの少し前がどうであれ、今は、もうダメなんだと。

 以前なら、交わりの後の微睡の貴女に悪戯をしたものだ。指を腰に這わせ、自分の名残を確かめるように、花びらを確かめたりもした。

 心地よさそうに吐息を漏らす貴女に、心がざわめいて、美味しい秘密を見つけた少年みたいに、襲いかかっていたはずなのだ。

 でも、もう今はできないでいる。閉じられた太腿の間で花びらがまだ濡れていようとも、そのことに心が踊らない。

 誰かの本にあった・・

 恋人達にとって嫉妬は悦びであり、
 結婚したばかりの二人には必要なものとなる。
 だが、その後には、ただ拷問のごとき苦しみとなる。

 貴女の髪の毛の先を煩わしく感じるのは、そのせいかもしれない、と考えるのは、私の身勝手だろうか。

 腕枕で寝息を立てる貴女には、何の罪もなく。昔と同じように時々、嫉妬するだけなのだから。

 だが、本当の理由はそうなのだろうか。自分の都合の悪いことは記憶から消えやすい。だから貴女の嫉妬が「煩わしさ」の理由ではないのかもしれない。

 私が貴女に何をしたのだろう。